ビジネス

2019.03.07

なんでもかんでも雑誌の付録に 宝島社の仕掛け人が語る本屋の未来

清水 弘一


布団を売りたいと思ったら、枕を売ることになった



もちろん、発案したものが全て商品化しているわけではない。常に限界に挑戦し、失敗しながら次のヒット作を狙ってきた。中でも清水が「あきらめていません!」と口にするモノがある。布団だ。

清水は年上の人と話した時に、「眠り」に関する悩みが多いことに気づいた。うまく眠れない、1回起きると二度寝ができず悶々と過ごさなくてはいけなくなる…。清水自身も同じように悩むことが多くなった。どう解決すればいいのか。専門家に相談すると、寝具を変えると悩みが軽減されるかもしれない、とアドバイスを受けた。

しかし、本屋に布団を並べて売ることはできるのだろうか。マルチメディア局で扱う商品は一般的な雑誌の大きさである、A4サイズにおさめている。布団がA4サイズにおさまるか。不可能に近い、と誰もが思った。すると寝具の専門家が「今の圧縮技術を甘くみたらいけません。A4サイズにおさめられますよ」と言い出した。

後日編集部に送られたサンプルの圧縮された布団は、たしかに上から見るとA4サイズにおさまっていた。しかし、横から見ると高さが1mになっていた。わざと笑わすために送ってきたのではないか、と思わせるくらい滑稽な姿だった。A4におさまっていた布団はついに商品化されることはなかった。

布団がダメなら、次に挑戦したのは低反発枕だった。二つ折りにし、圧縮してなんとかA4サイズにおさめ、高さもそれなりにおさえて作ることができた。現在40万部の売り上げを誇る商品となった。

本屋は偶然と出会う場所

なぜサイズの限界に挑戦してまでも、売り場を本屋にこだわるのか。清水の情熱はオンラインでは実現できないのか。率直に疑問をぶつけてみた。

「本屋は目的なく行っても情報を得られたり、本のランキングを見て時代を感じたり、何が今流行り始めているかが分かる場でもあると思います。ネットだと目的買いが多いので、偶然の出会いはあまり起きません」。

「偶然の出会いは自分で気づいていないような潜在的な興味を見つけられるので、自分の趣味嗜好が広がる可能性もあります。(商品の一つである組み立て式の)ウクレレも別に楽器に興味なくても、工作が好きな人がやり始めて楽器や音楽が好きになるみたいなこともあるでしょうし、本との出会いで趣味が広がるということはあると思うんですよね」

目的買いは自分が想定できる興味関心に頼るが、偶然の出会いは自分が知らない自分に出会える。その面白さ、遊びを清水は探求したかった。人間の予想しない無意識の「好奇心」をどこまでも大事にしたいからこそ、商品にたどり着くまでのハードルを低くした。

清水にとって一番大事なのは「お客さんとそのつながり」だという。「お客さんにストレスや不安をかけないことを考えたら、僕らにとって本屋は最高の流通だと思っている。ただ、それは時代の流れによって変わってくるのかもしれない」と話した。

本屋でなんでも買えるようにしたい。ベゾスと清水の舞台は正反対だが、いいものが一番ハードル低く届くようにと、きっと同じ思いで取り組んでいる。清水はそこで「偶然の出会い」に注目した。アルゴリズムで「あなたへのオススメ」がマニュアル通りに仕組まれた世の中で、「偶然」はさらに稀少性を増すだろう。まずは一歩町の本屋に踏み出すだけでも、まだ見ぬ世界が広がっているのかもしれない、と、ヒットメーカーに背中を押された気がした。

文=井土亜梨沙 写真=小田駿一

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