(c)Jérôme Prébois / ADCB Films
「追加された場面、消滅したエピソード、想像しなかった場所、私が描かなかった時代、すべて完璧に成功した映画化のお手本だ。監督の溢れんばかりの才気に驚いた。私は最も幸福な小説家だ。この作品を語るのに立派で重厚な言葉は要らない。ひと言、感動に尽きる」
原作者のルメートル自身がこう絶賛する本編だが、エドゥアールがつける仮面のひとつに、宮崎駿監督の「千と千尋の神隠し」に登場した「カオナシ」のような表情を持つものがある。少年の頃は、柔道をやっていて、青帯までいったというデュポンテル監督に、日本映画で影響を受けた監督や作品はあるかと訊ねると、やはり宮崎監督の名前が真っ先に挙がった。
「日本の映画監督で好きなのは、まずは宮崎駿です。あとは『火垂るの墓』の高畑勲。クラッシックなところでは『夢』の黒澤明。溝口健二、小津安二郎ももちろん。小津の『東京物語』は、来日するので観てきたばかり。最近の監督で言えば、是枝裕和や北野武の作品も観ます」
(c)2017 STADENN PROD. – MANCHESTER FILMS – GAUMONT – France 2 CINEMA
「天国でまた会おう」のなかに流れる強い反戦への思いは、確かに宮崎駿監督の作品に通ずるものがある。しかも、戦争というリアルな題材を扱いながら、ファンタジックな映像も織り交ぜていく作風にも、同じような香気を感じる。語り口としては、同じフランス映画であるジャン=ピエール・ジュネ監督の「アメリ」なども頭に浮かぶ。
もちろん「その女アレックス」の著者であるルメートルの原作だけに、ミステリー的要素も含まれている。「絵巻物のごときアートな映像で贈るグランド・エンタテインメント」が配給会社の謳っている惹句で悪くはないが、それだけではないデュポンテル監督の世の中へと発信するメッセージも強く込められた作品だ。
「その女アレックス」の映画化も、目下進行中のようだが、どうやらメガホンを取るのはデュポンテル監督ではないようだ。ピエール・ルメートルの作品はすべて読んだというデュポンテル監督だけに、観てみたい気もしなくはないが。
連載 : シネマ未来鏡
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