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2019.03.04

巨大インフラの誕生で、中国と香港・マカオのボーダレス化は進むのか?

中国国旗と香港特別行政区の区旗がはためく西九龍駅


彼らの目的はマカオのカジノである。ところが、有名なホテルリスボアの玄関周辺は、広東省外から来た中国の中高年ツーリストが鈴なりになって道端に座っていて、かなり異様な光景だった。マカオに団体で来た彼らも、全員カジノをするわけはないので、他にすることもなく、行く場所も思いつかない人たちも多いのだ。

日本の観光地の免税店の周辺でも同じような光景がよく見られる。安いツアーに参加している以上、こうして時間をつぶすほか仕方がないのである。

そして、カジノの中も中国人観光客だらけである。これではもう外国人は利用したがらないだろう。

ちなみにマカオは、カジノからの税収によって、いまや1人当たりの名目GDPが世界第3位、アジアでトップの771万ドル(2017年)を誇り、第25位の日本をすっかり追い抜いている。復路は、マカオからフェリーで深圳の蛇口ターミナルへ。所要80分で料金は250パタカと割高だ。乗客の大半はカジノ帰りの個人客だ。


マカオフェリーターミナルからは航路だけでなく、富裕層向けのヘリコプターの移動サービスもある(料金6080パカタ)

かつては香港との間に二重の境界が

いまや、香港の4つの港とマカオの2つの港へは、広東省の珠江デルタに面した12の都市から定期航路がある。そして、前述したように中国で最も豊かな地域といわれる香港・マカオと広東省の間は、国内外の階層の異なるさまざまな人たちのニーズや利便性に合わせた出入境ルートと多様で濃密なローカルネットワークが張りめぐらされている。

しかし、そこには当局が通行を管理する境界も敷かれている。2000年代初期までは、一般の中国国民が深センに入る際にも出入境ゲートが設けられていた時期もあったほどだ(つまり、香港との間には二重の境界があった)。かつて日本ではボーダレス化する世界を無邪気に称賛する時代があったが、中国は一貫して社会秩序の維持のために境界を必要としてきた。

深センに入る境界が取り払われたいま、この先「一国二制度」が終焉した(2047年)後、香港・マカオ間との口岸が撤廃される日は来るのだろうか。現状では、どうもそのようには思えない。かつては夜闇にまぎれて泳いで香港に密出国する中国人が大勢いたことを思うと、今日秩序を乱すことなく、徹底した通行管理がなされていながらも、国家規模の巨大施設だけではなく、多様な出入境ルートと交通網によって、きわめて効率的で合理的な運営が実現しているからである。

境界が残るかどうかは、今後の香港や深セン、広東省の力関係や役割がどう変わっていくのかによるのだろう。答えはすぐに出そうにない。

※1人民元=16.50 円=1.17香港ドル=1.20パカタ(2019年2月現在)

連載 : ボーダーツーリストが見た北東アジアのリアル
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文・写真=中村正人

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