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2019.03.04

巨大インフラの誕生で、中国と香港・マカオのボーダレス化は進むのか?

中国国旗と香港特別行政区の区旗がはためく西九龍駅

昨年秋、香港で2つの新しい巨大な交通インフラが相次いで誕生した。9月23日に中国の高速鉄道が香港まで延伸され、西九龍駅が開業。10月24日には香港とマカオをつなぎ中国広東省の珠海まで延びる港珠澳大橋が開通したのだ。

前者は、世界最長2万9000kmという中国の高速鉄道網が、ついに香港にまで及んだことを意味する。開通した区間は26kmにすぎないが、遠く北京まで直結し(9時間かかるが)、それを国家の偉業とみなす大陸の人たちにとっては、香港を中国と一体化する象徴的な意味があることから、現地では盛んに報道された。

一方、港珠澳大橋は、香港国際空港近くに造られた人工島とマカオ半島東側の人工島を結ぶ、こちも世界最長の海上橋で、海底トンネルも合わせると全長55kmの直通道路になる。9年の工期を要した大プロジェクトでもある。そして、香港・マカオ間の連結のみならず、中国広東省との接続を果たしたことに意味がある。

中国ではこの10数年間というもの、この種の破格なスケールのインフラ開発が、全土で展開されてきた。中国で新設された空港や高速鉄道駅はどれも呆れるほど大きい。伝え聞くところでは、これらのインフラ整備は、まるで採算度外視で進められており、高速鉄道の建設費用はもとより負債も天文学的にふくれあがっているという。

ボーダーエリア3往復して見えたこと

先日、このエリアを訪ねる機会があった。ただし、そのとき興味深く思ったのは、これらの国家規模の交通インフラではなく、むしろローカルの人々が複数に張りめぐらされた境界を行き交う光景だった。

中国側のボーダー都市である深センと香港の間だけで、9つの口岸(出入境イミグレーション)があり、さまざまな人たちが日々異なる目的で往来していたからだ。これらの口岸の一部を、利便性や経済合理性を脇に置いたツーリストという、無責任かつ自由な立場で3往復して見えてきたことがある。

このボーダーエリアがユニークなのは、そこが国家同士の境界である「国境」ではないことと、口岸を渡る陸路と海路で4つの異なる交通手段があることだ。すなはち、1. 地下鉄+徒歩、2. バス+徒歩、3. 鉄道+徒歩、4. フェリーである。行き交う人たちは、それぞれの出発地と目的地、所要時間や運賃などを比較して、ルートと移動手段を使い分けている。

初日は、朝8時半頃、深セン側の福田口岸から香港の落馬州へ渡った。ここは「1. 地下鉄+徒歩」で行ける。深センの地下鉄4号線の南の終点「福田口岸」駅を降りると、乗客はいっせいに駅ビルとつながる中国出境ゲートに向かう。


香港側のMTR落馬州駅のホームから眺める福田口岸

パスポートチェック後は300m以上ある長い通路の橋を渡り、香港の入境ゲートまで歩く。その間、手続きも含めて15分ほど。通勤客らしい人たちも多いが、なかには阿姨さん(お手伝いさん)に手を引かれ、香港の幼稚園に通う子供の姿も見られる。


幼児の背中のバッグに香港市内の幼稚園の名前が見える(福田口岸にて)

おそらく香港の尋常ではない不動産の高騰で深セン市内に住居を構えた香港市民が、子弟を中国ではなく香港の教育施設に通わせているものと思われる。ここは、時間帯にもよるが、とてもカジュアルな「生活者」口岸のようだ。
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文・写真=中村正人

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