電通総研内のクリエイティブシンクタンクによる連載「NEW CONCEPT採集」


こだわってつくったものを、業界内外の流行や仲間との「かかわり」で広げていく。若松さんの「重くつくって、軽く売る」やり方は、つくり方と売り方の関係性を考えるヒントになるかもしれない。

若松さんと鹿児島の飲み屋で話をしているときに「眉村ちあき」の話で盛り上がった。彼女はアイドルでシンガーソングライターでもあり、実業家でもあるという。たまたま私も都内のライブハウスでパフォーマンスを見たばかりだった。独特の歌詞と様々な音が入り乱れたポップでキャッチーな中毒性のある楽曲。即興でのパフォーマンスもすばらしく、会場は異常な熱気に満ちていた。

ステージ上だけではない。実業家としての一面があり「株式会社会社じゃないもん」を設立し、ライブの物販コーナーで株券を売っている。自身の音楽を広く届けるために、株式会社の株券という重たい印象があるものを、超手軽に買えるように工夫をこらしたのだ。

もうひとつ事例を紹介したい。NHK1.5チャンネルから生まれた番組「テンゴちゃん」で、82歳の森口貢さんがVTuber(バーチャルYouTuber)として自身の戦争体験を語るという企画があった。ゲームの中のようなバーチャル空間で、目が大きなアニメキャラのような3Dのアバターが、戦争体験を話すというギャップもあって、つい引き込まれてしまう。

戦争体験を伝えたい10代・20代の若者に話を聞いてもらうために、彼らが支持するVTuberになったという。戦争体験や社会課題といった「重たい話題」を伝える時のアプローチとしても、「軽くする」という手法は有効だといえる。

こだわりが強ければ強いほど、それを正確に伝えたくなる気持ちもよくわかる。しかしラーメン屋の意図的な行列が見破られてしまうくらいに、人々のリテラシーが発達した時代。しっかりとものをつくっていれば、軽く売ってもその本質的な良さはちゃんと伝わるはず。真摯にものづくりに取り組んでいる人たちには追い風が吹いている。


鳥巣智行◎電通Bチーム平和担当。コピーライターとして企業の新商品からコミュニケーションまで手がける。五島列島の図書館「さんごさん」共同設立者。最近、トゥギョウザーはじめました。

文=鳥巣智行 イラストレーション=尾黒ケンジ

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