はじまりは97セントのプロトタイプ 200億ドル企業スクエアの創業秘話

スクエアの共同創業者ジム・マッケルビー(画像提供:ダッソー・システムズ)


マッケルビーは比喩としてある体験の話をする。

「冬のある日、友達とトヨタの小さな車でスキーに行くことにした。走り出してすぐに猛吹雪になり、目の前が真っ白になった。道標は1マイルに1つ反射板があるだけで、それもほとんど見えない。怖くて止まりたいと思ったが、後ろに大きなトラックがついていて、止まったら追突されてしまうかもしれない。道の端に寄せてやり過ごそうかと思ったが、どこが道の端なのかわからない。私たちは前に進むしかなかった。だがそうして私たちがスキー場に着いた時、空が晴れたんだ」

マッケルビーたちは、誰もいないパウダースノーのゲレンデで快適なスキーを楽しむことができた。スクエアの物語はそれと似ていた。彼らは一度も止まることなく走り続けた。何人もが目的地に向けて同じタイミングでスタートしたとしても、厳しい環境の中で次々に立ち止まり、脱落していく。その中を真っ直ぐに走り続けたからこそ、白銀の世界で大きな利益を得ることができるのだ。

「重要なことは、今。必要なことは、止まらずに進むってことだ。全部、“今”がそのタイミングなんだ」とマッケルビーは言う。

さらに彼は、アイデアをいかに形にするのかということについて、こんなアドバイスをした。


(画像提供:ダッソー・システムズ)

「スクエアの最初のカードリーダーにかかったお金は97セントだった。なぜなら私が手で作ったからだ。だから私はその全てについて話すことができる。厚みも、素材も。デザインも。

しかし、いまアントレプレナーになりたいという人は、アイデアをプレゼンして、シードインベスターから資金を貰って、アウトソーシングでプロトタイプを作りたがる。私は、それを正しいとは思わない。

今、『いいアイデアを持っているから、投資して欲しい』と言う人には私は言いたい。『それでモノは? ないのなら今すぐ作りなさい』と。プロトタイプを作ってから資金調達をすると、景色が変わるからだ。私たちは資金調達が必要な時にはすでに完成品を持っていたから、全く困らなかった。

たくさんのVCが次々に私たちに「出資したい」と会いに来た。私たちは彼らにその場でクレジットカードを借りて、スクエアでカードを切って、『これがスクエアなんですよ』と実演して見せた。相手によって金額を変えてね(笑)。つまり私たちは起業家からお金を取って会っていた。

30年前、新しいジェット機のアイデアを思いついた人は、それを開発するために何十億ドルという政府の助成金が必要だった。でも今は、3DCADやシミュレーター、3Dプリンターを使えば、ジェット機のモックアップだって作れてしまう。誰にも許可を得る必要がなく、アイデアを形にすることができる時代なんだ。今、イノベーションを起こしたいのであれば、自分でカタチを作るべきだ。今なら、それが出来る。誰にでもね」

文=嶺 竜一

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