はじまりは97セントのプロトタイプ 200億ドル企業スクエアの創業秘話

スクエアの共同創業者ジム・マッケルビー(画像提供:ダッソー・システムズ)


イノベーションの条件とは何か。それはそのプロダクトが、人々の生活を変える新しい便利さを提供することに加えて、シンプルで美しいデザインであることだ。アップルの製品がそうであるように。それはイノベーションの不文律と言ってもいい。ジム・マッケルビーとジャック・ドーシーには、高いレベルで、その意識が共通していたのだった。

2009年、2人はスクエアを創業し、翌年にはSquare Readerをリリースした。そしてわずか6年後の2015年に上場。ツイッターとスクエアの2つの上場企業のCEOとなったドーシーは、ビリオネアとなった。起業から10年となる今、スクエアの時価総額は200億ドルを超え、フィンテックの世界的企業となったのである。

銀行、クレジットカード会社、証券会社など世界中に巨大資本を持った企業がひしめく中で、なぜたった2人で起業した会社が成功できたのか。

「何よりも重要なのはスピード、そしてタイミングだった。スピードはいろんな問題を相殺してくれた。なぜならアイデアを思いついても、多くの人はすぐに前に進むことを怖がる。でも私たちはいつだって“その瞬間”に動いてきた。ただ早ければいいというつもりはない。物事には正しい瞬間がある。でもほとんどの場合、そのタイミングは、“今”だったんだ」。

こんな逸話がある。最初のデバイスを開発していたある日、ドーシーはスティーブ・ジョブズにスクエアのプレゼンテーションの機会をもらってきた。ドーシーとマッケルビーは、アップル社がiPhoneのイヤホンジャックにカードリーダーを挿して使うことを認めないかもしれないと考え、ジョブズに直接プレゼンしてお墨付きを貰おうと面会を申し込んでいただのだ。ただしジョブズが指定した日程は、数日後だった。

「その時点ではまだ機能面の開発しかしていなかったから、試作品のルックスはとてもダサくて、とても彼に見せられるものではなかった。スティーブ・ジョブスのデザインに対するこだわりが半端じゃないのは誰でも知っている」



だが、2人は大きなチャンスをふいにするわけにはいかなかった。

「私はアップル製品を参考に2日間でケースをデザインし、アルミを研磨して見栄えのいいケースを作った。ただ、できたと思ったらアルミは電導性だからカードリーダーがうまく動作しなかった。そこで慌てて樹脂で作り直したよ。ジャックと僕はお互いに何回もダメ出しをして作り直したんだ」

プレゼンテーションはどうだったか。この日のことについてマッケルビーは語らなかったが、その時のデザインが現行品とほぼ同じであること。そして、スクエアのカードリーダーがアップルストアで販売していることがその結果を物語っている。

マッケルビーは試作品が出来るとすぐに家族を連れて中国の深センに移住した。アメリカにはもはやモノづくりのエコシステムがなかったからだ。中国企業とともに量産モデルを設計し、驚くべきスピードでサプライチェーンを構築した。
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文=嶺 竜一

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