「信仰の対象になる日本刀を造る」刀鍛冶職人が考える伝統とイノベーション

刀鍛冶職人の川崎晶平さん


刀には、古いものほど新鮮に感じる側面がある──数え切れないほどの刀に接してきた晶平さんだからこそ、たどり着いた境地と言えるでしょう。

「刀の世界は不思議なもので、製鉄法が未熟だったはずの平安から鎌倉、そして南北朝時代あたりまでに造られたものが、鉄の美しさが際立っているんですよ。製鉄技術が進んで量産できるようになった時代のものは、本来なら鉄の質も良くなっているのに、逆にその美しさが奪われているのです」

刀の歴史を見ると、そうした平安・鎌倉・南北朝の時代に造られた美しさを取り戻そうという動きが何度も起きています。

「室町時代初期、戦国時代末期から江戸時代初期にかけて、そして幕末の頃などですね。その当時の製鉄技術を研究したり、あるいはその刀そのものを研究したりするのです。それぞれの時代で、平安・鎌倉・南北朝時代の刀から新しい美を見出していく、そんな歴史が刀の世界にはあるんですよね」



制約のなかで生み出されるクリエイティヴと美学

製鉄技術や造型など、長い伝統がある日本刀には決まった製法が確立されていることから、素人目から見ると、新しい技術や製法を生み出すといったクリエイティビティ、イノベーションを生みづらいのではないかと思いがちです。しかし、晶平さんは、確立された手法の中で生み出せるクリエイティビティや美学があると断言します。

「刀は、三尺そこそこの小さな世界。しかも制約事項が多いんです。現代でも、伝統の材料を使い、伝統の工法を用いるから、突拍子もない斬新なデザインは許されません」

刀の世界では、仮に勝手に作ったとしても、作品を世に出すには都道府県の教育委員会に「美術刀剣製作承認書」を提出して、登録しなければいけません。登録審査委員が長さ、反りなどを計測し、また銘文や刀の特徴を記録してようやく登録証が発行されるので、伝統の枠から大きくはずれたものは登録ができない。登録できなければ売るだけでなく、展示すらできません。

「制約のある限られたキャンバスの中で自分の思いを、自分の仕事を込めなきゃいけない。窮屈といえば窮屈なように思えるかもしれませんが、やっていて思うのは、髪の毛1本分の反りや幅の違い、ミリ単位、ミクロ単位の違いで、日本刀を美しくさせ、人を感動させるものにもなるのです」



日本刀の造型に隠された鉄そのものの強さ、美しさ、質感といったものに、刀工の個性や力量が出てくる。そこからイノベーションが生まれる。制約があるからこそ、刀職人としての腕の見せどころというわけです。
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文=松永エリック・匡史

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