キャリア・教育

2019.02.27 12:00

学校から教科書が消える? ビル・ゲイツの予言は正しいのか


3. 教える上での問題点

教師が生徒の前に立ち、講義と実演を行う場面を想像してみよう。終わりにひとりの生徒が挙手し、特定の部分をもう一度説明してくれるように頼む。すると教師は「それはできません。でも、今やった講義と実習をはじめからそっくりそのまま繰り返すことはできます」と答える。

これは良い教え方ではない。ある説明方法で生徒が理解できなかったとしたら、別の方法で説明することは、教育の基本だ。ところがビデオによる授業では、同じ内容を繰り返す以外は何もできない。ある考え方を教え直す際には、ビデオを観ながらよりも、紙の教材を見ながらの方が簡単だ。

ビル・ゲイツは、人工知能(AI)を利用して大量に生成される個人特化型学習では、生徒に不得意分野があった場合に「新しい問題をソフトウエアが自動生成してくれる」と述べているが、問題は解説とは違う。子どもが算数の問題を解けなかった時、教師がその部分を教え直すのでなく、単に新しい問題を出したとしたら、親は納得できるだろうか?

4. テクノロジーの限界

生徒のデバイスが学校でネットワークに接続できない場合、唯一使えるのは紙の教材だ。

5. 誇大広告

ゲイツは、自身が出資する無料のデジタル講座「ビッグヒストリー」を宣伝し、特に「作文の宿題に対するフィードバックがすぐに得られる」点を強調している。テック企業各社は10年以上前から、生徒の作文を採点できるソフトの開発を約束してきたが実現には至っておらず、こうしたソフトの性能はいずれも人による採点には遠く及ばない。

ビル・ゲイツは書簡で、生徒が理解できなかった概念や、前夜に宿題として読み込んだ教材の理解度をソフトウエアが把握できると示唆している。これらは非常に大きな約束だ。教師は生徒の脳内で何が起きているかを知ることに1日の大部分を費やしているのに、ソフトウエアならそれを簡単に知れるというのか? ソフトが大口を叩きながらもそれを実現できなかったら、生まれるのは「なぜこんなものを買ってしまったのだろう?」という疑問であり、今後の購買にも疑念が生じるだろう。


テクノロジーに従来の教科書を拡張し補う力があることには、疑いの余地がない。テクノロジーは、教師の教え方のバリエーションを増やすと同時に、従来の教科書では不可能だった、世界との直接的で鮮明なつながりを実現する。オープンソースの無料オンライン教材は今のところ、学校が購入する有料教材と同じ価値がある。教師にオンラインツールを使用して独自の教材を作らせる方法については大きなポテンシャルがあるが、現状ではそこまでに至っていない。

教科書は間もなく消えると言われ始めてから10年以上が経つが、米国のほとんどの学校では依然として紙の教科書が好んで使われている。教科書の訃報を書くにはまだ早いだろう。

編集=遠藤宗生

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