でもその日、ナオさんにはっきりと「がんを治せる病気にしたい」と言われたとき、自分の中でカチッとスイッチが入ったのが分かりました。その目をみて、その言葉の裏側にある覚悟を感じて、僕も急に腹をくくったというか、本気で向き合ってみようと思えたのです。
話し合いを続ける中で、ふとナオさんが「昨日、アメリカのがん専門病院で働く上野直人医師と偶然が重なってお会いできたんですけど…」と言って、1枚の名刺を出しました。
この上野医師の名刺のCancerに引かれた線を見た瞬間に、「これだっ!」と脳天を撃ち抜かれるような感覚になりました。そうか、この名刺と同じように「C」を消せばいいじゃんと。企業は「C」を消して、ユーザーは「C」のない商品を買って、その一部をがんの治療研究に寄付される……その仕組みが一気に浮かび、それにナオさんが「delete C」という名前をつけて、新しいプロジェクトが生まれました。
このdelete Cを思いついたとき、最初に思ったのは「自分にもできることが、みつかった!」でした。僕にはがんを治すことなどできないわけですけど、「C」のつく商品やサービスを持っている企業さんに「C」を消すことをお願いすることはできる。そんな「C」のない商品を買うことだってできる。それなら「僕にもできる」って思ったんです。
僕がプロジェクトを立ち上げる時に大切にしているのが、この「自分にもできる」という感覚をどれだけ多くの人とシェアできるかということです。なぜなら「自分にもできる」と思った瞬間に、その人とその問題との距離が一気に縮まるからです。
試しにdelete Cの話を友人にしてみると、みんなの消してみたい「C」が出るわ出るわ。Coca-Cola、Facebook、Starbucks、TIFFANY&Co.、CHANELといった外資系企業名、広島東洋カープ、C大阪といったスポーツチーム、Mr.Children、BUMP OF CHICKENといったアーティスト、CanCamからCをとったら「アンアン」だねとか、視力検査の右(C)をとったら、みんなの視力上がるねとか、ついには三日月もCに見えるとか、とにかくアイデアが止まりません。
現実にこれができるかどうかなんてことはひとまずどうでもいいんです。アイデアを出すこと自体がすでに「自分にもできる」ことになっているわけですから、こうした大喜利合戦が生まれるのはプロジェクトにとってめちゃくちゃいいことなのです。
そして、プロジェクトを現実のものにするための仲間集めが始まりました。まず、医薬知識が豊富で、医師や研究者の人脈も広いゲノム医療のプロを迎え、コアメンバーを結成。そこに、デザインのプロ、動画制作のプロ、PRのプロ、さらには上野医師をはじめとする、国内外のがんの治療研究の最前線で活躍している多くの医師・研究者の賛同を得て、2019年2月4日に「delete C」はスタートしました。
プロジェクトを立ち上げた2月4日にイベントを開催。中央で赤い帽子をかぶっているのが中島ナオさん、その左横が僕です。