ビジネス

2019.02.27

「新しい」だけが価値じゃない。500年企業の虎屋が語る持続性

虎屋社長 黒川光博

一般社団法人at Will Workが主催する「働き方を考えるカンファレンス 2019」が20日、虎ノ門ヒルズフォーラムで開かれ、「働くをひも解く」という切り口で、有識者ら総勢約50人が登壇した。

冒頭のキーノートセッションのテーマは「500年続く企業が変えたこと、続けていること」。虎屋社長の黒川光博氏が登壇し、激動の時代の中で変化する価値観と大切にしている組織風土を語った。


「大きい・豪華・速い」より「普通が良い」

「低層階にしたらいいのではないか」。昨年リニューアルオープンした「とらや 赤坂店」は、今の時代性を考えて地上9階建てだったビルから、低い建物(地下1階地上4階建て)にしました。

以前のビルを建てた1964年は高度経済成長期であり、当時は「大きい・豪華・速い」ということを皆が求めた時代でした。50年の月日が経ち、そのような価値観を大切にする人よりも、今はもっと普通が良いと考える人が多くなったように思います。

「今、菓子屋に何が求められているのか」と考えながら、「おいしい和菓子を喜んで召し上がって頂く」という経営理念や、自然の恵みである農産物を原材料にしている和菓子について思いを馳せていく中で、それぞれのお客様の目的に沿った店にしたいという思いが強くなりました。

その結果、車椅子の友人は使いやすいと言ってくれましたが、これからもっと、目的に沿っているか検証していかねばと思っています。

現代は情報が多く「速い・新しい」ことが重視され、情報を知らないと乗り遅れてしまう風潮がありますが、そのような価値観には少し疲れてきていないでしょうか。

働くことを考えても、自分の生活は大切にしたいですよね。「働き方改革」と盛んに言われていますが、これは政府が押し付けるものではなく、企業と自己の責任で取り組むべきことだと思います。

虎屋については、「古い・堅い・真面目」といったイメージを持たれる方が多いと思います。弊社では1年間を通じて求人を行っているのですが、虎屋で働きたいと集まってきた方は「安定志向で、着実にやることが大切」という点に価値を見出している人が多いように感じます。

現代風ではないかもしれませんが、このような価値観を持った人もいるわけで、そのような人々をいかに大切にするかが重要だと思っています。

「変えること」も大切にしています。1986年に「男女雇用機会均等法」が施行されましたが、弊社では76年に学歴年功別の賃金体系を廃止し、「男女同一賃金」を掲げ、性別や学歴による賃金の差を無くしており、フラットな組織風土があります。

別の話になりますが、売り上げが順調に上がっていた時期に、社内には「これまでの商売の仕方は間違っていないのだから、変えることは何もない」という空気もありました。ですが私には将来的に「和菓子がなくなってしまうのではないか」という危機感がありましたので、業績が良い時こそ変革をするべきだと皆に訴えましたが、変えることに反対の社員もいました。
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文=督あかり 写真=at Will Work

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