ベルリンやパリのスーパーマーケットでは、今、急速に「農地化」が進んでいる。消費者がそこで手にする野菜は、遠く離れた土地で栽培されたものではなく、大都市のど真ん中で芽吹かせ、育てられたものだ。この「農地革命」をヨーロッパで推進しているのが、2013年にベルリンで創業された「インファーム」だ。
「私たちのビジョンは、今ある食のサプライチェーンを再定義すること。つまり、野菜が消費者の元に届くまでのシステムを根本から変えることです。新鮮で安全な野菜を消費者のすぐそばで生産することができれば、今ある食の在り方は大きく変わります。レストランや家庭のキッチンのすぐそばに農地があれば、誰でも摘みたての野菜を料理に使うことができるようにもなります」
こう話すのは、共同創業者のオスナット・ミカエリだ。
ドイツで消費される食糧の70%以上は、国外から輸入したもの。生産地から消費地までの距離が長くなればなるほど、食糧を運ぶための燃料や労働力が必要となり、鮮度を保つために使用される化学薬品が土壌を汚染する。多くの弊害を生みながら、消費者の手に届くまでに50%以上の食糧が廃棄物となっている。
ヨーロッパでは、スーパーの野菜コーナーにインファームのキャビネットが並ぶ。
インファームは、人口が集中するヨーロッパの各都市で野菜を栽培し、その場で販売する。栽培に使用するのは土壌ではなく、栄養を含んだ水だ。葉を照らすのは、太陽ではなく淡い紫色のLEDライト。そして、栽培スペースを垂直に積み上げることで、物理的な接地面積を最小限に抑え、従来の農業に比べて水を95%、肥料を75%削減することに成功した。
都市における農地の最適化を進め、2平方メートル分のインファームは、無農薬でありながら、土壌農業の250平方メートル分の生産能力を持つ。このヴァーティカル・ファーミング(垂直農法)を手がける企業は他にもあるが、インファームが他と異なるのは、そのビジネスモデルだ。
「都市に多くの農場を設置するために、私たちはサブスクリプション型でサービスを提供しています」(前出、オスナット・ミカエリ)
つまり、ただ農地を売るのではなく、農地の「システムと管理」を月額で提供している。そのうえで、顧客とともに「何をどれくらい育て、いつ収穫するのか」を計画し、すべての農地をクラウド上でつなげ、味や風味、栄養価が最大限引き出されるよう、専属のスタッフたちが、24時間遠隔で管理する。すべての野菜を室内で栽培するインファームは、コントロールの効かない気候の変化や土壌の状態に影響を受けることがないため、農地ごとに最適化が可能になる。