日本人建築家が推進 アメリカで進む「フードハブ」プロジェクト

ケンタッキー州ルイヴィルで進む「フードハブ」プロジェクト(写真=大中啓 D-CORD)

「食の砂漠化」が進むアメリカで、消費者と農業を近づけるプロジェクトを推進。世界を舞台に活躍する気鋭の建築家・重松象平から日本人へのメッセージ。


「アメリカでは恐ろしい調査結果が出ています。子供たちは『牛が卵を産む』と本気で信じているんです。スーパーマーケットに行くと、牛乳と卵が同じところに置いてあるからです」
 
こう語る重松象平が、目下取り組んでいるプロジェクトのひとつが、ケンタッキー州ルイヴィルで進む「フードハブ」の建設だ。フードハブとは米国農務省が推奨する考え方で、集約、保存、流通、マーケティングの4つの機能をひとつの施設に集約するというもの。

「プロジェクトの根本にあるのは、現在の農家と消費者のB to Cという形を、B to Bに変えることです。つまり、両者の距離を近づけるということ。例えば、病院、小学校の給食、ローカルエアラインの機内食など、地域での食の需要はたくさんある。しかし、野菜を加工、流通させる施設を農家レベルで持つことは難しい。だから、みんなが共同で使えるものをつくって支援しようというものです。

ただ、それだけを目的にすると、どうしても工場のような味気ない存在になってしまう。そこで、多くの人が集えるよう、食育をする場や、マーケットを設置しようとしています。また、施設内にリサイクル機能を備えるという提案にも、アメリカの他の街も興味を示してくれている。こうした動きがさらに広がればと思います」
 
フードハブプロジェクトは、農地と人の距離を縮め、さらには都市における食の在り方に新たな視座をもたらすものとして注目を集めている。

重松が「食」というテーマに向き合うようになったのは2012年のことだ。ハーバード大学デザイン大学院から「3年以上継続できる課題を設定して、研究講座をやってほしい」と依頼されたのがきっかけだったという。なぜ「食」だったのだろう。

「私は、建築家が建築のことだけを考えていればいい時代は終わったと思っています。建築家は変化の兆しを注視する観察者でなければならない。社会の変化を探知し、それが都市や空間にどう影響してくるかを伝えていくべき存在になるべきだと。建築を基礎から学ぶことはもちろん大切ですが、同時に人間にとって普遍的なテーマをもっと積極的に見つめたほうがいい。そこで行き着いたのが、食でした。今までグローバリゼーションがやたらと尊重され、世界の均質化が進んできましたが、食だけがいまだにグローバル化とローカル化の両側面を有しています」
 
では、重松のなかで、食と建築を結びつけたものは何だったのか。さらに言葉を継ぐ。

「食は生産から消費まで、幅広いスケールで人間の生活に関わっている。多角的に研究できるという点でも魅力的です。建築の教育においては『とかく図書館をつくろう』となりがちですが、結局、それに携われる人間はほんのひと握り。それを考えると、建築やデザインを志す学生たちが社会に出たときに武器になりえるテーマを学ぶにあたって、食はとても意義あるものだと思ったのです」
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文=甘利美緒

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