ビジネス

2019.02.25 17:00

ジェフ・ベゾスvsイーロン・マスク 世界的起業家たちの「特異なプリンシプル」


──マスクのモットーは「突き進め。限界を打ち破れ」だそうですね。

彼が、小さなことにでも、いかに積極果敢に当たるかを示す言葉だ。たとえば発射台も、通常とは違う低コストの方法で作る道を見いだした。空軍をプッシュして交渉し、中古の液体窒素タンクを(撤去・解体する予定だった業者から)譲り受け、8万6000ドルの処分費用に1ドルを足した金額で買ったのだ。

スペースXは、まだ実績が乏しかったころ、そうしたやり方で業界のビッグプレイヤーに対し、(小さな者が巨人を倒す)ダビデとゴリアテさながらの戦いを挑んだ。

当初は、民間の起業家が宇宙開発企業を立ち上げ、成功させることなどできないと言われたが、マスクはやってのけた。再利用型ロケットなど無理だとも言われたが、それも実現させた。既存の衛星打ち上げ産業を「破壊」することなど不可能だとも言われたが、それもやってのけた。

問題は、スペースX自身がビッグプレイヤーとして、宇宙産業で、以前よりはるかに主要な地位を占めるようになった今、戦闘的でイノベーティブな文化をどのように維持していくか、だ。

──ブランソンのモットーは「ばかになって、やってみよう」だそうですね。

彼は非常に楽観的で、夢想的と言ってもいいくらいだ。数年以内に民間の宇宙旅行を実現できると考えている。ここまでくるのに14年かかっており、(14年に)飛行実験でパイロット1人が犠牲になったが、「もうすぐ実現できる」と、楽観的な見通しを崩していない。

ヴァージン・ギャラクティックの社員は、「ノーノー。競争ではないのだから、せかされたくない」と思っているだろうが、ブランソンは常にプッシュ、プッシュというスタンスで前進しようとする。

──ベゾスとマスクの挑戦やミッションの実現において、「プリンシプル(主義)を貫く」ことは、どのくらい重要な意味を持っているのでしょう?

彼らのプリンシプルは、それぞれのモットーに組み込まれている。ベゾスは、自分がやっていることに精魂を傾け、山を一つ一つ征服し、最終的に地平線を望む場所に到達すること。一方、マスクは、極めて野心的な目標を設定することだ。

スペースXのオフィスには、火星に人間が住んでいるかのように加工した写真が何枚も飾られ、玄関マットには、足跡が付いた火星の赤土が描かれている。大きな最終目標にフォーカスし、大きな夢を抱き続けられるように、だ。彼を駆り立てているのは、人類の未来に長期的影響をもたらすような最大の冒険を成し遂げることだ。


世界初の商業月周回旅行の乗客としてZOZO・CEOの前澤友作(右)と契約したことを発表したイーロン・マスク(左)。

ワシントン州ケントにあるブルーオリジンの本社からも、ベゾスのプリンシプルがうかがえる。社員用ラウンジの、圧巻ともいえる壁画だ。大洋を横断する何隻もの船や、同社のキャラクターであるカメの絵は、ゆっくりと慎重に、忍耐強く進むというモットーを象徴している。

ベゾスがプリンシプルを貫いていることは、18年12月に予定されていた(再利用型ロケット「ニュー・シェパード」の)テスト飛行を取りやめたことからもわかる。地上の装置に何らかの問題があったという。

また、火星への有人飛行の前に月面着陸を成功させることが重要だと考えているところにも、「ゆっくりはスムーズ、スムーズは速い」と、段階を飛ばさず、慎重にという彼のプリンシプルがうかがえる。

片やマスクがプリンシプルを貫いた例としては、前出の空軍提訴が象徴的なものだ。正しくないと思ったら相手と対決し、大企業に独占された市場に参入する。他の起業家のプリンシプルと比べ、向こう意気が強い点が特徴だ。

もう一つ、マスクのプリンシプルとして挙げられるのが、会議をめぐるスペースXの服務規律だ。同社では、社員が「自分は同席する必要はない。時間のムダだ」と感じたら、退室してデスクに戻ることができる。彼自身も、それを実践している。

つまり、マスクは、誰もが「最も生産的で最も重要な仕事に精を出すべきだ」というプリンシプルを貫いているのだ。


クリスチャン・ダベンポート◎2000年よりワシントン・ポスト紙の記者を務め、近年は金融デスクとして宇宙・防衛産業を担当。外傷性脳損傷の退役軍人を扱った作品で放送界のピュリッツァー賞のピーボディ賞を受賞。主な著書に『宇宙の覇者 ベゾスvsマスク』(新潮社)、『As You Were:To War and Back with the Black Hawk Battalion of the Virginia National Guard』(未邦訳)。

文=肥田美佐子

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