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2019.02.25

ジェフ・ベゾスvsイーロン・マスク 世界的起業家たちの「特異なプリンシプル」

イラストレーション=デール・エドウィン・マレー


──あなたの著書によると、マスクは事の正否で判断し、相手を不快にさせてでも、正しいことのために戦うそうですね。

そうだ。彼は、時として非常に闘争的になる。好例が、国防総省の2大請負業者である米ロッキード・マーティンと米ボーイングの合弁事業、ユナイテッド・ローンチ・アライアンスをめぐる一件だ。

アライアンスは10年にわたって、国防総省の打ち上げ契約を事実上、独占しており、両社にとって実にうまみのある事業だった。マスクは、その市場に風穴を開け、入札で競い合う権利を手に入れるべく、(14年に)米空軍を提訴したのだ。

彼は、反アライアンスの大規模なイメージ戦略を展開し、アライアンスがロシア製のエンジンを搭載したロケットを軍事衛星の打ち上げに使っていると、訴えて回った。

実に好戦的なやり方だ。「将来のクライアントである米政府機関を提訴するのは賢明でない」という声が相次いだが、最終的に両者は和解に至り、スペースXも軍事衛星の打ち上げができるようになった。マスクは、自分たちも入札に参加し、競い合う権利を得られてしかるべきだと考え、戦ったのだ。

これは、スペースXが既存市場の常識を覆し、新規市場を開拓した好例だ。これこそが、まさに「ディスラプション(創造的破壊)」である。

マスクは向こう見ずで、目立つこともいとわない。まだロケットを打ち上げる前、NASAから相手にされなかった彼は、(03年に)首都ワシントンで、ライト兄弟の動力飛行100周年を祝う一大行事が開かれた際、スペースX初のロケット「ファルコン1」を(トレーラーで、はるばるカリフォルニアから運び)ワシントンの目抜き通りを練り歩いたこともある。国立航空宇宙博物館の前で記者会見を開き、世間やメディアの話題をさらった。

「前提」に挑むためクレイジーを排除せず


2017年にコロラド州で開催された宇宙シンポジウムで、乗員カプセルと新しいブースターを披露するジェフ・ベゾス。

──ブルーオリジンについて印象深い点は?

ベゾスの宇宙に対する関心やアプローチ法などを理解するには、まず、彼が(00年のブルーオリジン設立当初)化学ロケットの是非から検討し始めたことに注目すべきだ。「長年、使われてきたから、それが最適なのだ」という「前提」に挑むため、代替案を片端から検討し、一見、クレイジーと思える考えも排除しなかった。

つまり、彼らは新しいことにトライし、失敗することを恐れなかったのだ。誰もがやっているからベストなやり方なのだと、頭から決めてかかるようなことはしなかった。最終的に化学ロケットが最適だという結論には達したが、再利用型のロケットでなければならないと考えた。

また、ベゾスは、マスクが事あるごとに野心を口にし、目立とうとするのとは対照的に、実に静かで控えめであり、秘密主義的だ。やっていることをひた隠しにし、ブルーオリジンと働く人たちの多くに守秘義務契約書への署名を求めた。非常にゆっくりと事を進め、「ひとたび何かを達成したら、公にする」というスタンスだった。事前に話してしまうと世間から注目され、憶測が飛び交うからだ。

彼のモットーの一つに、「一歩ずつ、果敢に」というものがある。宇宙計画のような手ごわい事業は、切迫感を持ちながらも、極めて慎重に一歩一歩、忍耐強く物事を進めていこうという意味だ。ベゾスは、宇宙計画を長期的視点でとらえている。難題だからこそ、「いつ実現するんだ?」などといった世間からの干渉を受けることなく、ひそかに計画を遂行する自由を求めているのだ。

もう一つのモットーが「ゆっくりはスムーズ、スムーズは速い」だ。時間をかけて手抜きをせず、じっくり取り組むほうが結果的に速い、というのが彼の考えだ。拙速にやれば間違いを犯し、振り出しに戻って、やり直さねばならない。初期段階で徹底的に煮詰め、細心の注意を払って進めるのが、ベゾスとブルーオリジンのマインドセットだ。
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文=肥田美佐子

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