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国際捜査の現場から


北朝鮮が交渉のなかで強く求めているのが、制裁緩和だ。北朝鮮側は、金剛山観光事業の再開や開城工業団地の再稼働、鉄道・道路の連結などの南北交流事業を、国連安保理が採択した制裁決議の、例外として認めるよう要望している。韓国の文在寅政権もこれを全面的に支援するが、米政府当局では反対が強い。

韓国側は、前述の「南北交流事業」について、「これらのプロジェクトを一括して例外とすべき」と主張するが、国連の安保理が自らの決定権を韓国政府に委ねる可能性は低い。

また、中国やロシアなどが自国と北朝鮮との共同プロジェクトへの例外適用を強く主張し始めれば、国連制裁レジームがなし崩しになりかねない。すでに中国では、少なくとも複数の企業が、北朝鮮との事業再開のために国連制裁の緩和を待ち続けている。

北朝鮮との経済協力を進めるには、国連制裁の例外適用ではなく、安保理決議自体の変更が本来、あるべき姿と思われるが、北朝鮮の非核化が本格化しない限り、この決断も米政府当局にとっては容易ではないだろう。一度、決議を変更すれば、あとで元に戻すのは事実上不可能だ。北朝鮮の非核化が本格的に進展しない限り、決議変更の可能性は低い。

国連安保理決議による制裁以外にも、米国などの単独制裁や複数の国家でつくる有志連合による規制など、様々な制裁レジームがある。米国の単独制裁はもっとも広範囲に及び、北朝鮮の人権問題から密輸、通貨偽造、サイバー攻撃、資金洗浄などの犯罪行為に至るまで、複数の制裁法がある。

北朝鮮はこれらの問題を是正しない限り、事実上、様々な制裁措置を適用されるだろう。中国がこれらの問題をより大きなスケールで展開した結果、現在、米国から様々な制裁を受けている現実を認識すべきである。

つまり、北朝鮮による非核化が具体的かつ本格的に進展しない限り、制裁緩和は必ずしも容易ではない。他方、北朝鮮の非核化が進展し始めれば、いかなる制裁措置をどの段階で緩和するか、幅広い選択肢が米政府にはある、ということも指摘しておきたい。

ただし、トランプ大統領が実務的視点を無視して、首脳会談で軽率な決定を下す可能性はある。その場合、米政府当局は果たしてこの決定をどう実行するのだろうか。米実務当局が履行できないような合意をトランプ大統領がしないよう、よくよく牽制する必要がある。


2018年に行われた第1回米朝首脳会談を報じるテレビ(Getty Images)

日本に突きつけられる「巨額の請求書」

北朝鮮の非核化が進展した場合、日本は何を求められるだろうか。非核化のプロセス自体、容易ではないが、首尾よく核弾頭の解体まで着手できたと仮定しても、北朝鮮には膨大な核・ミサイル計画のインフラが存在することになる。

欧州の政府高官によると、米政府は、北朝鮮国内で核・ミサイル計画にかかわる人員数を約15万人と見積もっているという。これだけの人口の転職先をあてがわなければならないとすれば、それだけでも大変なコストと時間がかかるだろう。

そして間違いなく、アメリカは日本と韓国を中心とする同盟国に、北朝鮮の非核化にかかる費用を負担してもらいたいと考えている。いかに米政府と渡り合おうとも、私たちは、巨額の請求書を米政府から突きつけられる覚悟をしておくべきである。

日本としては、非核化を強く要求するだけでなく、現実的にどのような措置が必要となり、そしてどのような費用負担を行うべきなのか、具体的な数字を含めた検討を進めておく必要がある。日本国内でも、非核化が進展した場合を想定して、日本はどのような役割を果たすべきなのか、議論を早急に深める必要がある。

文=古川勝久

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