だが、前回同様、今回も首脳会談の予定が先に決まり、それに合わせて、急遽、実務者協議が始まった。まず2月6日~8日に平壌で開催された米朝協議は、事実上、並行線に終わったようだ。次の実務者協議も、首脳会談直前にハノイで開催されたが、どこまで実質的な合意を形成できたのかは不透明だ。
トランプ大統領は、ロシア疑惑や民主党主導の米連邦下院議会との対立など、内政で深刻な問題を抱えており、数少ない外交実績を築くための機会として、米朝会談を利用しようとする意向が強くうかがえる。とても北朝鮮問題を真剣に考えているとは思えない。
他方、北朝鮮に近い米専門家によれば、金正恩委員長も、トランプ大統領が昨年の首脳会談の合意事項をほとんど何も履行していないことに、不信感を募らせているという。
巧みな北朝鮮の交渉戦術
実務交渉の責任者を務めるビーガン北朝鮮担当特別代表に近い筋によれば、2回目の首脳会談に向けた実務者協議では、複数の議題について話し合われてきたという。
具体的には、非核化、対北朝鮮制裁の緩和、米朝双方による連絡事務所の設立、北朝鮮に対する人道支援の提供、朝鮮半島の終戦宣言、そして米国が北朝鮮に対して与える「安全の保証」や朝鮮半島の平和体制に関する具体的措置などである。
2月22日のNHKによる報道によれば、米政府は北朝鮮との間で、北朝鮮の寧辺にある核施設の査察や廃棄をはじめ、非核化の行程表での米朝合意をめざしており、そのための見返りとして人道支援の再開や、連絡事務所の設置等を提案しているという。
ただし、これに関連して、昨年まで米政府で対北朝鮮交渉にあたっていた元高官は次のように警告する。
「合意履行のための行程表は簡単につくれる。真の問題は、私たちが北朝鮮に何を譲る覚悟があるかだ。北朝鮮は交渉期間を引き伸ばして、その間にできるだけ譲歩を得ようとするだろう。例えば、寧辺の核施設の無力化を巡る実務交渉だけでも、米側からいろいろと譲歩を引き出しながら、2年ほど引き伸ばすかもしれない」
北朝鮮の交渉戦術は、実に巧みである。時間の経過とともに、米側への要求を高めてきた。2018年のシンガポール首脳会談では、北朝鮮はもっぱら「朝鮮戦争の終戦宣言」にこだわっていた。だが、トランプ政権はそれを受け入れなかった。
その後、北朝鮮は非核化で何ら主だった措置を講じていないにもかかわらず、米側への要求事項は、制裁解除、米朝関係改善、北朝鮮の体制保障の提供など、多岐にわたっている。時間の経過とともに、巧みに要求水準を引き上げている。