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国際モータージャーナリスト「ライオンのひと吠え」




キーを回すと、グググと直6のエンジンがかかる。初代のEタイプには名車のX Kから受け継いだ265psの3.8Lだから、当時は最も力強いエンジンの1つだった。噂では、最高速は250km/hだけど、僕が乗った日は当然、そこまでは試せなかった。

しかし、試せたのは、そのトルクフルな直6と4速のM/T。昔のマニュアル仕様だから、エンジンを常に回していなければ、すぐエンストしたがるので、クラッチとアクセルを踏むタイミングにいつも以上に注意を払った。

Eタイプと今現在のスポーツカーでは、加速性はもちろん比べ物にはならないけど、当時のジャガーにしては、このクルマは充分速かった。特に2速で2500回転からのパンチ力がジワジワと発生するフィーリングは病み付きになる。でも、シフトフィールが多少曖昧なところと、ステアリングが現在のクルマより遊びを確実に感じ、しかし路面からあまりフィードバックを感じないのは、しようがない。面白いことに、これだけの名車とのお付き合いだと、欠点があっても許してしまう。



それからもう一つ、ブレーキだ。フロントにはディスクブレーキがついていたにもかかわらず、やはりこのEタイプの制動力は弱いので、いつも以上に早くブレーキペダルを踏む準備をしていないといけない。でも、今の電子制御満載のクルマのデジタルな感覚とは違って、体に気持ち良く伝わるアナログなフィーリングは最高だった。

この車の独特な加速性、ブレーキ、ステアリングは、一度慣れてしまえば気楽に運転できた。モナコから山を登り、サントロペあたりを廻ってホテルに戻ったけど、こんな場所でこのオープンカーの走るフィーリングは、まるで60年代の名画「ミニミニ大作戦」のワンシーンに出演しているかのような感じだ。それは、まさに夢の世界だった。

五感をこれほど、無限にまで刺激する名車を、現在のクルマ作りにたとえてはいけないね。なぜなら58年前、カーメーカーは安全性、燃費性、信頼性よりも、目と魂に訴える美しさ、ハートを揺さぶるパワーとハンドリングを重視していたからだ。やはり、違う時代のクルマだからこそ価値がある。



ホテルに戻ってクルマを降りて、ふと思った。いつか欲しいな、と。

エンツォ・フェラーリが、「世界一美しい」と絶賛したEタイプは現在のオークションで、およそ1200万から1500万円程度で落札される。あの手の名車にしてはリーズナブルだと思うけどね。

連載:国際モータージャーナリスト、ピーターライオンの連載
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編集=フォーブスジャパン編集部

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