「これだけたくさんの人が会いたがってくれると、正直に言って、ロック・スターにでもなった気分です」と目を輝かせ、フレッド・ラディ(64)は言う。ラスベガスのベネチアン・リゾートでファンたちに囲まれている彼は、アメリカで最も話題のITサービス企業「サービスナウ」の創業者だ。ここでは、同社の毎年恒例のディベロッパー・カンファレンス「Knowledge」が開かれ、1万8000人余りが集っている。
浮かれるのも無理はない。わずか15年前、彼は一文無しだった。勤めていた会社の粉飾会計が発覚し、破綻。3500万ドル(約38億円)の個人資産を一夜にして失った。しかし、彼がその後創業したサービスナウは現在、時価総額300億ドル(3兆3000億円)に達し、2018年の米フォーブス誌「世界で最も革新的な企業」ランキングで1位に選ばれた。
社員6000人強の同社は4000社以上の顧客を抱え、そのなかには同誌「世界の有力企業2000社」リスト内の850社が含まれている。500社以上が毎年100万ドル以上をサービスナウの製品に支払っている。
彼らは、何を作っているのか?─「シンプルで柔軟なワークフロー」、人事からカスタマーサービス、マーケティング、法務に至るまで企業担当者がITサービスを簡単に管理できるプラットフォームだ。
セールスフォースは企業の交渉や契約をすべて記録することによって(そして近年では、営業担当者に次に何をすべきか教えることによって)外部顧客の管理を可能にしたが、サービスナウは担当者のニーズに合わせた内部システムを保証し、BMCソフトウェア、ヒューレット・パッカード・エンタープライズといったITサービス管理ソフトウェアの強固なプレイヤーから、市場の半分を奪っている。
「世界で最も革新的な企業」は、投資家たちが次に大きな革新をもたらす可能性が高いと考える企業を示す指標「イノベーション・プレミアム」によって導き出されるが、サービスナウを1位に押し上げたのは、製品の2つの特徴─「シンプリシティ」と「カスタマイザビリティ」にある。そして、それらは今後ますます磨かれる可能性がある。
サービスナウの製品は、IT部門にセットアップを要求しない。いったん運用されると、リクエストとデータポイントとチェックリストが一カ所に集まった集約センターが提供される。
次にそのすべてがアルゴリズムによって分析され、ニーズを予測し、問題点をあぶりだし、効果を測定する。契約更新率が90%の同業界でも、サービスナウは98%と際立っている。こうした特徴のすべてが、単なるITサービスを超えた未来の方向性を示している。
ラディの成功はまた、マネジメントにおける革新からも生み出されている。彼は創業者としては珍しく、引き際を知っており、自分の赤ん坊を他人に任せることができるのだ。ラディは11年にCEOからCPO(最高製品責任者)へ退いた。
「ミレニアル世代はこんなふうに考えます。『どうしてペイパルのパスワードは20秒でリセットできるのに、仕事用のEメールをリセットするのには20分かかるうえに、電話までかけなきゃならないんだう?』」。現CEOのジョン・ドナホーは言う。ここに来る前はイーベイでCEOを務めていた人物である。彼もまた、複雑な過程をシンプルでエレガントなものにする必要性を知っている。「消費者はシームレスな体験を求めています。従業員たちも同じです」。