「代わりがきかない、制御できない、抵抗できない」ラガーフェルドは今後も、その後継者に指名されたヴィルジニー・ヴィアールに多大な影響を及ぼし続けるだろう。
ヴィアールは1987年から、最初はインターンとして、1997年からはクリエイティブスタジオのディレクターとして、ラガーフェルドの下で働いてきた。デザイナーではなく「スタイリスト」とも呼ばれていた彼女は、典型的な「女房役」だった。
2005年に放送されたドキュメンタリー・シリーズ「サイン・シャネル カール・ラガーフェルドのアトリエ(Signé Chanel)」のロイック・プリジェント監督は、「カールが機関車で、ヴィルジニーはシャネルのレールだ」と述べている。
ラガーフェルドのスケッチが出来上がったところから始まる彼女の仕事は、まずは生地を選ぶこと。そして完成までのチームの調整などだった。表舞台に顔を出すことはほとんどなく、1人でステージに立ってあいさつしたのは、ラガーフェルドが体調不良で欠席した今年1月のショーが初めてだった。
シャネル 19年春夏オートクチュールコレクションに登場したヴィルジニー・ヴィアール
ココとカールから受け継ぐもの
シャネルのファッション部門のプレジデント、ブルーノ・パブロフスキーはヴィアールの任命を発表した声明の中で、彼女は「彼(ラガーフェルド)とファッションハウスの創業者であるガブリエル・シャネルが残した遺産を受け継いでくれるだろう」と述べた。
ヴィアールは確かに、ガブリエル・“ココ”・シャネルの美学を内在化させ、それを時代に合わせて変化させ、解釈し直し続けてきたラガーフェルドの足跡をたどっていくだろう。
シャネルの発表によれば、ラガーフェルドは自身の仕事について、「私の仕事は彼女が言ったことをするのではなく、彼女がそうしていただろうと思えることを実行することだ。シャネルの良いところは、それが多くのことに取り入れることが可能なアイデアだということだ」と語っていた。
「暴君」ラガーフェルド
偉大なデザイナーであり、先見の明を持っていたラガーフェルドは、1971年のココの死後、ブランドの復活にとって不可欠な存在だった。だが、彼は「カイザー・カール(皇帝カール)」と呼ばれるファッション界の暴君でもあった。
ラガーフェルドは、「今までに服を着せた中で最も完璧な人形」は女性だと表現したことがある。女性の外見については、例えば美しく痩せているべきであるなど、自身の考えを遠慮なく述べてきた。
2009年にはドイツ誌フォークスに対し、痩せすぎのモデルを偏重していることについて、「女性の曲線美など誰も求めていない」と自己弁護している。
英王室のキャサリン妃の妹ピッパについて、「妹の顔が嫌いだ。彼女は後ろ姿しか見せるべきじゃない」と特に悪意のある皮肉を言ったこともある。