痛みでもかゆみでもない、がん治療の「最も大きな苦痛」とは

Gail Shotlander / Getty Images


ある会社の社長は赤い発疹が顔に出てしまい、このままでは娘の結婚式にカッコ悪くて出席できないが、その理由自体が恥ずかしくて言い出せず、結婚式直前に「出ない」と言い出した。カバーメイクで赤みやブツブツを消したことで式に出席することはできたものの、深刻に悩む社長の表情は今でも忘れられない。

お2人とも、私が外見サポートした後に小さな声で「小さなことだけど、本当に悩んでたんだ。ありがとう」と照れ臭い表情を浮かべながら言ってくださった。

家族や社会との繋がりを守る「外見ケア」

また、妻や母親の外見の変化に、本人以上に心を痛めている男性もいる。

がん患者の家族は「第2の患者」ともいわれ、患者さんと同じか、それ以上に心のケアを必要としている。海外の病院内でもがん患者の外見支援をしているMiMi Foundationという団体は、患者だけでなく家族からの相談を受け付けるほか、エステティック施術なども行っている。
 
日本でも2018年、運転免許証の写真撮影で医療用帽子を着用することに関して配慮をするようにという通達が出されたり、行政から医療用ウィッグの補助金が出されたり、がん保険で外見ケア特約が発表されたりするなど、様々な支援策が打ち出されている。

がんに対する社会の仕組みは、少しずつ改善されてきている。しかし、課題も多い。

医療用ウィッグひとつをとってみても、インターネットで購入できるような数千円の物から、フルオーダーで製作する60万円以上の物まで様々だ。治療初期で心理的に不安定な中で、比較検討して自分にあった適切なものを選ぶのは難しい。

治療初期の段階でウィッグをはじめとする外見の悩みが解決されないと、気持ちが前に向かず、外出できず引きこもりがちになったり、生活を楽しむ気持ちが生まれにくかったりする。
 
患者からは、医師や看護師には相談しにくいという声が多い。相談先がわからないのが大きな課題だ。

そうした課題に取り組むのが「アピアランスサポート」だ。全国の美容室と連携している他、病院内のがん相談支援室や調剤薬局などでもサポートを受け付け、患者会などで経験者からアドバイスを受けることもある。
 
がん患者の外見の悩み(特に脱毛)は治療の初期段階で発生することが多い。そうした悩みは解消できるんだという成功体験を得ることで、患者は治療やこれからの人生に対して、セルフコントロールできることに目が行きやすくなり、前向きな気持ちを持ちやすい。

また、病状がかなり厳しい状況でも、ヘアスタイルやメイクなどで外見を変えるのは簡単なことだ。たかが見た目という見方もあるかも知れないが、外見の支援は内面の活力につながると日々感じている。

治療によるボディイメージの変化などで自分らしさを失いそうになる中で、ともに悩む家族、また医療者や社会全体にとっても、アピアランスサポートは「がんとともに生きる時代」に、自分らしさやライフイベントなど楽しみを諦めずに生きていくための一つの新しい方策である。

文=岩岡ひとみ

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