大学、コミュニティ、研究施設…価値創造の秘訣
「世界最大級の起業家イベント」「世界一クールな起業イベント」とまで評されるようになったSlushの成長は、それを支えるエコシステムなしでは語れない。フィンランドは元来研究開発が盛んな国である。ノキアの経営悪化などのニュースを受け、国を挙げて新たな価値を創造する起業家やエンジニア、デザイナーの育成支援に力を尽くしている。
屋台骨となっているのが、大規模な大学改革の末、3大学が10年に合併して誕生したアアルト大学だ。学生たちは次世代の起業家を生み出そうと「アアルト・アントレプレナーシップ・ソサエティ(アアルトES)」を結成した。
「アアルト・デザイン・ファクトリー」内部。研究機関かつ、企業とのコラボで画期的なソリューションを生み出す。
古い倉庫を改造し拠点としながら、10年にアクセラレータ・プログラム「スタートアップ・サウナ」を始めた。学生たちが11年からSlushの運営を引き継いで以降、Slushは年々参加者が増加し、世界的なイベントに成長した。同大学でのオープンイノベーションの一角を担うのが、プロダクトデザイナーの育成を目指す「アアルト・デザイン・ファクトリー」。
「スタートアップ・サウナ」の内部。以前倉庫として利用されていた建物内をコワーキングスペースとして利用している。
企業からの要請を受け、実際にソリューションやプロダクトを提案できる。プロトタイプを生み出すための設備や工具なども備え、自由な発想で「まず創る」という環境が整っており、世界中から見学も絶えない。
ヘルシンキの隣のエスポー市には、アアルト大学、同市に本社を置くノキアなどの大企業やスタートアップ、住民などのオープンネットワーク「エスポー・イノベーション・ガーデン」がある。
それぞれのプレイヤーがコミュニティを形成しコラボレーションを実現する、人や資本のハブ的な役割を果たしている。フィンランド技術研究センター(VTT)はエスポーのイノベーションを支える半官半民の研究開発施設で、5Gやバイオエコノミー、スマートシティ、ヘルスケアなどの重点分野で最先端の研究を行っている。