今の仕事が「心地よい」と感じるなら、それは大きな転機かもしれない

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前回のこのコラムで、「一直線に誰かの後を追う“出世コース”はなくなりつつある」という話をしたが、関連してもう一つ、お伝えしたいことがある。それは「越境する力」についてだ。

ただ上を目指すだけでなく、立ち止まって周りを見渡したり、寄り道をしたりする行動が、イノベーションのきっかけとして歓迎される時代になりつつあるとしたら、これから身につけるべきは「越境する力」だと思う。すなわち、居心地のいい“こっち”を飛び出して、まだ見ぬ“あっち”の世界へと境界を越えていける力だ。

ある程度の実績が認められた時、できるだけそのコンフォートゾーン(居心地のいい場所)に止まりたくなるのは人の常。「すごいですね」と褒められ、「あなたの話なら聞きます」と耳を傾けてくれる人ばかりいる世界は、周囲から受け入れられる分、なんとなく成長しているような感覚を持てる。

「あ・うん」の呼吸でものごとが進み、傷つくような場面も少ないから、いつまでも居たくなる。しかしながら、自分を褒めてくれる相手をより満足させるスキルを磨いていくことは、それほど自分の成長にはつながらない。

本当の成長を目指すならば、コンフォートゾーンを飛び出し、あえて“今までの自分が通用しない場所”にチャレンジすることを勧めたい。実際、スポーツやビジネスの現場で活躍する優秀なコーチには、“越境型キャリア”を選択してきた人が多い。

スポーツで評価されている優れたコーチといえば、「世界有数のトップ選手の指導実績を積んできた人」という印象をもつかもしれないが、トップクラスの選手はそもそも実力が高く、指導を受けることにも慣れており、自律的にトレーニングができる素地がある。つまり、教える相手としては非常にやさしいレベルなのだ。コーチの仕事は、すでに力のある選手のパフォーマンスを活性化する「強化」という役割となる。

教える上でより難易度が高いのは、「育成」や「普及」を目的とした場合。例えば、小学生相手の体験教室などでは、集中力が長時間続かない相手をどう引きつけさせ続けるかというところから始めなければならない。更にいうと、コーチとして立つ人物の過去の実績さえ知らないことが普通だ。まさに“今までの自分が通用しない場所”でのチャレンジとなるだろう。

トップ選手を指導する時には考えもしなかった課題を乗り越える中で、コーチは謙虚に学んでいくことが求められる。使い慣れた言葉を捨て、新たな言葉を探し出して、相手に伝えていかなければならない。これが、最大の学びとなる。
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文=中竹竜二 構成=宮本恵理子

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