ビリビリは2018年8月、アニメ制作を手がける日本のファンメディアと資本業務提携した。東京・人形町に自前のスタジオを開設し、自社サイト上で配信するオリジナル作品を共同制作する。
なぜ中国の動画共有サイトが、日本でアニメ制作するのか。日本法人社長のチャン・ミンシャンは、その狙いをこう話す。
「競合にないコミュニティを育み、ユーザーを魅了して支持を厚くするためです」
中国の動画市場は競争が激しく、月間アクティブユーザー数(MAU)が数億に達する百度傘下の「愛奇芸(アイチーイー)」、テンセント傘下の「騰訊視頻(テンセントビデオ)」、アリババ傘下の「優酷土豆(ヨウクトゥードウ)」が覇権を争っている。MAU9270万のビリビリは、御三家には水をあけられているが、ユーザー層は独特だ。18〜35歳の若者が78%を占めている。
中国で若者がもつ影響力は大きく、20年に同国オンラインエンターテインメント市場消費の60%以上を捻出するとの予測もある有望株。さらにビリビリは、会員登録時に歴史や音楽、声優など専門性の高いテストを実施し、正答率60%を超えたユーザーだけでコミュニティを形成。このユーザー層は二次元アニメへの関心が高く、特に近年はギャグコメディや日常系の作品が人気だ。優良な作品の配信を増やせば、コミュニティを活性化できる。
これまでも同社は、日本アニメの版権取得に加え、国内のアニメ制作委員会にも投資し、コンテンツを拡充してきた。さらに中国産アニメの配信を増やしているが、業界独自の課題も顕在化している。
「中国の制作会社は米国のハリウッドやディズニーの下請けを担ってきたケースが多く、CG技術に優れる一方で、二次元制作の担い手は少ない。その結果、質の高い二次元アニメは担い手を確保できず、日本に発注する事態が起きているのです」
技術力が高いアニメーターが豊富な日本での制作は課題解決の最善策だ。ファンメディアは、「月がきれい」「ヒナまつり」など、中国でも人気を博した作品の制作実績をもち、クオリティに定評がある。同社にとっても、ビリビリの資本を活用して中国市場を開拓できることはメリットだ。両社はM&Aアドバイザリーを手がけるパラダイムシフトの仲介を経て協業に至った。
「まずは年間数本のペースで中国向けのアニメをつくっていく。将来はさらに枠を広げて、欧米などの海外市場にも展開できる作品をつくることが目標です」
チャン ミンシャン◎bilibiliバイスプレジデント、日本法人ビリビリ代表取締役。17年以上のアニメーション制作経験をもち、コンテンツの版権取得や海外との共同制作も手がける。プロデューサーを務めた「チェスマスター」は、2008年に中国のマンガ・アニメーションの最大コンペティションである「金竜賞」を受賞。