デザインは装飾ではない。「生活の提案」
──現在、ビジネス界を中心に「デザイン思考」が脚光を浴びています。デザイン思考に対する課題意識はありますか?
そうですね、多くの企業における「デザイン思考」では何かのアイデアを生むだけで、形に落とし込むところまでせず終わることが多い。そこは問題視しています。
多くのデザインコンサルティング会社は、アイデアを出すところのサポートをしているところがほとんど。やっぱり、ビジネス的にはそれが一番効率がいいんですよね。今はモノをつくると損する世の中になっているなと感じます。
例えば、配車サービス「Uber(ウーバー)」が顕著です。ウーバーは自社でスタッフを抱えなければ、車さえ所有しない。人と運転者を仲介するサービス。ビジネス的にはトップクラスに効率がいいですよね。今の世の中はモノを作ったり所有をしたりすると、お金がなくなって損をすることも多い構造になっていると思います。
一方で、アイデアだけでなくアウトプットが求められる場面は多い。実際、私がスタジオを経営していときに多くのクライアントが「アイデアはあるが、アウトプットができない」という悩みを抱えていました。重要度をパーセンテージで表すなら、アイデアは20%、世の中に出すアウトプットのプロセスが80%。アイデアを発想することと、それを形にしていくことの両方が大切なんです。
──アイデアに偏る問題はどうすれば解決できるのでしょうか?
どちらかひとつだけではダメだということを強く認識し、全体的な「デザイン」を考えることです。
デザイン思考を元にアイデアを練り、そのアイデアを形に落とし込んでプロダクトをつくる。それをさらにマーケティング戦略にまで落とし込んでビジネスを考えること。ここまで全体を考えることが、本来のデザインプロセスだと思います。これは、今までのデザイナーが当たり前のようやってきたことなのですが。
そもそも「デザイン」という言葉は、元を正せば「デコレーション」を指す言葉ではありません。デザインとは「生活の提案」、もっと大きな意味を持った概念なのです。ペンタグラムではその認識を大切にしています。これからも世界のパートナーとともに、アーキテクチャー、プロダクト、グラフィックなどを通して人々の「生活を提案」していきたいと思います。