未知の景色と体験と 地球上でいちばん美しいサハラ砂漠への旅

砂漠をラクダで移動する


そんな喧噪の街で1夜過ごし、夜が明けてからは、一路、砂漠まで2日かけて600kmのロングドライブ。「アラビアのロレンス」「グラディエーター」など数々の映画のロケ地となったアイトベンハッドゥなど、いわゆる「地球上なのに地球じゃないみたいな風景」がずっと続き、ほとんど退屈しなかった。


奇異な風景のアイトベンハッドゥ

今まで見たどんな絶景とも違った。ニュージーランドの雄大さ、タンザニアのどこまで続く台地、ハワイの包容力、そういう美しさのどれとも違う、奇異で不思議な絶景が続く。

ようやくたどり着いたのは、メルズーガという砂漠の入口の町。まずはアラブ特有の美しい建築のオーベルジュに泊まり、翌日は車からラクダに乗り換え、砂漠の中をひたすら移動すること数時間。ラクダをひくベルベル人の少年の後ろ姿に、「アルケミスト」の羊飼いの少年を重ねているうちに、砂漠の中のグランピングに到着した。

ベルベル人がくれた「人生のお土産」

ラクダ使いや砂漠の中で働く人たちには、ベルベル人が多いという。国境をまたぎ存在し、ベルベル語を喋る者がベルベル人とされ、その総数は数千万人という説もある。いわゆる少数民族ではない。


ベルベル人のラクダ使い

そして、ベルベル人という呼び方は他称だ。「わけのわからない言葉をしゃべる人」、ギリシャ語における非ギリシャ世界をさすバルバロイからベルベルへと変化した。野蛮とか未開とかそういうニュアンスを含んだ異文化や異民族への眼差しがそのまま名称として定着している。

ふと思った。未だそうした他称で、彼らを観光資源的に眺め、異国情緒のモードをフルスロットルにしてしまう私のような人間が、結果的に今欧米で話題の「文化の盗用(cultural appropriation)」を行ってしまうのだろうか。どこまでが敬意や憧れで、どこからが差別にあたるのだろう。

美しいものを思う気持ちと現実認識の差で、ふとアルケミストのスプーンの油を思い出す。理解と想像力、それを生み出すための知識がたくさん必要だ。

砂漠で出会ったベルベル人たちは、他者や異世界からの視線を誇りに思い、商いにもつなげ逞しく美しかった。そして私の心の中の旅の伴奏をたくさん引き出し、つまりこれからの人生のお土産を与えてくれた。

砂漠のグランピングは食事も美味しく電気も通っていた。食事の後は焚火を囲んでラクダ使い達の打楽器の演奏を聴いた。素晴らしいホスピタリティだったけれど、夜の闇や寒さや、寒さからくる心細さが、心の中のいろんな伴奏のボリュームを上げていき、不思議な気持ちで眠りに落ちた。
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文・写真=鈴木麻友美

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