「主人公じゃなくてもいい」 映画が教えてくれる大切なこと

『ジュリー&ジュリア』主演のメリル・ストリープ(左)とエイミー・アダムス(右、FilmMagic)

先週、単独でロサンゼルスに渡航した自称「プロのヒッチハイカー」の男子中学生がヒッチハイク開始直後にラスベガスで警察に保護された、という出来事があった。彼は約2カ月間をかけて「アメリカ横断ヒッチハイク旅」を敢行するとツイッターで宣言し、両親の許可も得ていたらしいが、ネットでは心配する声が多数上がっていた。

一方、バイト先で不適切な行動をしているところを動画に撮りSNSに上げて炎上する騒ぎが、立て続けに起こっている。インスタグラムに投稿された動画が、ツイッターに転載されて拡散するというケースが多いようだ。

中学生のヒッチハイク旅には、それを実況ツイートすることで多くの人に注目されたいという感情があるのだろうし、「バイトテロ」には、内輪受けを狙いたいという気分があるのだろう。

誰かに見てもらいたい、ウケたい、一時的にでいいから「主人公」になってみたい……という素朴な欲求は、多くの人がもつものだ。だがそれを叶えるためには、注目されるような特異点がなくてはならない。ユニークな考え方を示すとか、役に立つアイデアを提供するとか、人のやりたがらないことに挑戦するとか。単なる無茶や犯罪は問題外。と考えると、なかなか難しいことである。

今回紹介するのは、『ジュリー&ジュリア』(ノーラ・エフロン監督、2009)。1960年にアメリカで初めてフランス料理の本を出版して一躍有名になったジュリア・チャイルドと、2002年のニューヨークでジュリアのレシピを再現してブログに掲載する試みに挑戦するジュリー・パウエル。時代の異なる二人の実話が交互に描かれ、時に交錯していくという構成になっている。

この作品でジュリア・チャイルドを演じたメリル・ストリープは、ゴールデングローブ賞ミュージカル・コメディ部門で主演女優賞を受賞した。



料理ブログを書けば?」から始まる…

1949年、かつて政府機関の仕事についていたジュリアは、外交官の夫ポールと共に彼の赴任先のフランスに引っ越してくる。専業主婦となって暇を持て余していた料理好きの妻に、ある日ポールからプレゼントされたのは「ラルース料理百科」。英語で書かれたフランス料理の本はまだなかった。

これを機にフランス料理をマスターしたいと思ったジュリアは、有名なパリの料理学校ル・コルドン・ブルーに入学。プロを目指す男性ばかりの中、包丁の持ち方から学び直しめきめきと腕を上げていく。

男性達の中にいても頭一つ出るほど大柄のアメリカ人女性ジュリアのキャラクターは、楽天的でテンション高めのおしゃべりおばさん。どこにでもいそうな中年女性だが、物事に取り組んだ時の構えには、芯からの生真面目さとガッツをうかがわせる。

一方、2002年のニューヨーク・クィーンズ地区。ジュリー(エイミー・アダムス)は編集者の夫エリックと古いビルに引っ越してくる。夫婦仲は円満だが、9.11の処理をする公共機関で電話対応に追われるジュリーはストレスを溜め込んでおり、キャリアアップにしか関心のない友人たちとも今ひとつ話が合わない。文筆家の夢を断念しているアラサーの彼女の中には、「何をやっても中途半端」というコンプレックスが燻っている。

料理が趣味のジュリーにエリックは「料理ブログを書けば?」と提案、ジュリーは尊敬するジュリア・チャイルドの名著『王道のフランス料理』の524のレシピを365日かけて再現し、ブログに上げていこうと思いつく。
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文=大野左紀子

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