ビジネス

2019.02.21

「売れないことより、意図せず売れることが怖い」D2Cアパレルが提示する未来のブランド像

大阪の工場で丁寧に作られる、foufouの服


なぜ、そんなに売れるのか?
 
ところで、月間1000万円の売上実績が示すとおり、なぜ「foufou」は多くのファンに支持されているのだろうか。率直にそう聞くと、「難しい……答えはまだわかならいですね。ただ『ギュンカワ』なものを作っていて、それを『ギュンカワ』だと思ってくれるような人に向かって発信しているというのは間違いないです(笑)」とはにかむ。

「僕は作りたいものを作れているからなのかもしれない。マス市場を狙う会社だと出せないようなアイテムとか、そもそも予算的に作れないであろうものを個人だから作れちゃう。僕にとって洋服は一つのコンテンツでしかなくて、SNSや僕を含む全てのチャネルでブランドらしさを表現しているんです。だから発信や言葉のチョイスにもこだわって、ブランドの思想と仕組みづくりをしています」
 
ライブ配信でファンとコミュニケーションをとりながら商品を売る時代、売り手と買い手の距離はぐっと縮まっていている。反対に言えば、顧客の顔が見える形で販売をしようとすれば、販売できる顧客の規模には限界がある。しかし、彼の話を聞いていると、今の時代のブランドはそれでもいいのだと思えてくる。

「最初に決めたターゲットは、自分では服が作れないけれど『#オシャレさんとつながりたい』というタグで仲間を探して発信をしている人だった。そこからグラデーションをつけて少しずつ外に広げていきました」。100人のファンに1万円の洋服を売れば100万円。そう考えると、ブランドの世界観をターゲットにきちんと届けることができていれば、月1000万円を売り上げることは不可能ではない。
 
それでも高坂は「売り上げを伸ばそうとすれば伸ばせるけれど、絶対に無理はしない」と強調する。彼の思想が体現されていると思ったのは「明るい機会損失」という言葉を聞いた時だった。

「月に数回新商品を販売して、おかげさまですぐに売り切れてしまいます。『明るい機会損失』ばかりしているんですよ。もちろん買えなかった人のために再販は頑張りますが、数量だけ増やしていてはこれまでのアパレル業界同様の在庫過多になってしまう。ただ僕が何より恐れるのは『売れなかった』ことより『意図せずたくさん売れてしまうこと』なんです」
 
続けて高坂はこう話す。「前年比の売上高などを出すと、無理に伸ばそうとして歪みが生じてしまう。そもそも成長にどんな意味があるのかを考えないといけません。僕の場合は売り上げではなく『顧客満足度』を目標に掲げています。それぞれがどんなストーリーで購入してくれるのか、その深掘りこそに意味があるから、効率が悪くても地方に出向いた試着会を続けているんです」

僕はあくまで小さな八百屋、音楽で言えばインディーズ


高坂はライブ配信などを行い、工場で縫製される過程も発信している

今回動画撮影のために高坂が訪れた大阪のアイバソーイングという縫製工場は、家族4人で営む小さな町工場。「foufou」は昨年からnutteというオンライン上のプラットフォームを通してコミュニケーションを取っているため、高坂自身が出向いたのは初めてだそう。

テクノロジーが進化した時代、実際に顔を合わせなくても仕事ができる。それでも、わざわざ出向いてまで工場の様子をファンに伝える高坂のやり方も、たしかに非効率ながらも顧客満足度につながるコンテンツといえる。

そんな彼は「世界一小さい服屋で、法人に匹敵する売り上げになったら面白いなあ」と話す。「僕はあくまで小さな八百屋、自分の目が届く範囲で商売をやっているんです。だから法人化もしないし、お店も人が見つからなければ無理に出す必要もない。事業を広げるイメージはあるけれど、起業して資金調達して上場するとか、そういうイメージは全くつかないですね」

音楽に例えると理解がしやすい、と教えてくれた。「やっていることはあくまでインディーズ。でも目指しているのは誰もが聞いてくれるポップスです。だから、もちろん武道館に立ちたいと思っている。でも、今はお客さんからのうれしいリアクションがやりがいになって、僕がやるべきことを使命としてやっているという感覚です」

文・写真=角田貴広

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