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2019.02.20

公募では熱意が伝わらない、自治体が優秀な人材を獲得する秘策

2016年4月に「ITイノベーション専門官」として登用された吉永隆之

日本の自治体は、新卒者を採用して、いくつもの職場を経験させながら定年まで雇用するシステムをとっている。一方米国では、ポスト(職)を定めて、それに見合う能力を持つ人材を雇う「ポスト採用」が行われている。

ところが最近、国内の自治体でも、ITやPRといった専門人材を「ポスト採用」する動きが広まってきた。実は神戸市でもそうした採用により、他都市から羨まれるような人材を獲得している。民間企業でも争奪戦の専門人材をいかにリクルートし、どう活用しているのか。「ITイノベーション専門官」ふたりの事例を紹介したい。

自治体でも人材の「一本釣り」はできる

2016年4月に神戸市の「ITイノベーション専門官」に登用された吉永隆之(38)は、復興庁の任期付き職員として福島県浪江町で勤務していた。2015年の11月、何の前ぶれもなく、神戸市から「新たにITの外部人材を探している。興味はないか」という打診を受けた。

吉永は神奈川県出身、慶應義塾大学を卒業し、NTTグループ、アクセンチュアなどでも勤務経験はあったが、神戸とは縁もゆかりもない。ところが、福島原発事故で避難してバラバラとなった町民を、タブレットでつなぐ業務をしていた彼の考え方や仕事ぶりを聞いた神戸市は、任期がまもなく終わるのを知ると、ためらうことなく白羽の矢を立てた。

自治体が行う採用は、外部人材であっても通常は公募手続きを踏む。しかし、地方公務員法をよく読むと、ポストを定めた採用に関して公募は必須ではない。つまり自治体の多くは、平等原則から公募が義務付けられた新卒採用のルールを「ポスト採用」にもあてはめているのだ。

欲しい人材を目の前にしながら、採用責任者が「うちは公募が方針なので応募してほしい」と話していては、熱意は伝わらない。良い人材を採りたいのに、公募手続きを口にしていては、本末転倒ではないか。優れた人材を確保したいのなら、これと思った人材が見つかったのなら、すかさず「一本釣り」をするのが正解だろう。

打診から1カ月後の年末に、吉永は、神戸市から面談の申し込みを受ける。面談では、シリコンバレーのベンチャーキャピタル「500 Startups」との起業家育成プログラムを設計して、実行するのが仕事だと聞かされた。

「国内でまだどこも実現できていない挑戦をする神戸市に、本気を感じた。面白いと思いました」と語る吉永は、その場で、神戸市の職員になる決断をした。
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文=多名部重則

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