在宅で残業50時間、信頼で成り立つスウェーデン的ワークスタイル

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1日だけ特殊な働き方にする場合も多々ある。引っ越したばかりで、家具が届く日は在宅勤務にするというのはよくある話だし、大雪などで交通機関に乱れが生じた日は、「今日は家から働きます」というメールが沢山届く。

こうしたわかり切った内容で上司の承認を得る必要はない。各自が状況を合理的に判断し、同僚や取引先に不都合を与えないように配慮ができていればいいのだ。

こんな労働環境のため、ミーティングではたいていの場合、誰かがオンラインで参加している。子供の声が聞こえてくることもよくあることだ。全員が会議室に揃うのに比べれば多少不便ではあるが、個々のライフスタイルに合わせていくには相互に理解し合うことが必要だ。要は、自分もその権利を行使するわけだから、他人にも文句は言えない。

このような働き方を成立させるには、とにかく相互に信頼関係が築けていることが重要である。スウェーデンでは在宅勤務をしている人に対して、サボっているのではないかと茶化すようなことはない。疑うのではなく信用すること。これは日本での働き方改革でも、ひとつのキーワードになってくるはずだ。

お金より時間を大切にする

話を50時間の残業に戻すが、私の契約では残業を対価として受取れないことになっているので、毎日少しずつ早く帰るか、まとめて休むことで、残業分を減らしていくことになる。

先日、上司と今後数カ月の業務量の見通しを立てる中で、大まかな残業時間の予測を立てた。私の会社では残業が累計100時間になると、人事部から上司と本人に注告が入る仕組みとなっている。直ちにペナルティとはならないが、何らかの対策を取る必要がある。

私の場合はまもなく100時間を超えることは明らかなので、業務が落ち着くであろう数カ月後に2週間ほどの休暇を取り、残業時間と相殺することにした。これで75時間(1日7.5時間×実働10日)分の残業を一気に減らせる。

また、お金より時間を大切にするスウェーデン人はなかなか取らない手法だが、休暇ではなく残業代として支給をしてもらう提案も可能だ。契約書に記載がないからと言って、四角四面に解釈する必要もない。とにかく、この国では合理性が大切なのである。歴史、伝統、前例、周囲の視線を気にする日本とは、この点が大きく異なる。

そもそも私がスウェーデンに移住をしたのは、自身のライフワークバランス向上がひとつ大きな理由だった。わかりやすく言えば、子供たちと過ごす時間を増やしたかったのだ。この点は絶対に譲れない。しかし、私の現在の働き方であれば、たとえ残業が月50時間になろうと、子供たちとの時間に悪影響は及ばない。上司には「子供がなかなか寝てくれなかったら、そのぶん労働時間は減りますので」とあらかじめ伝えてある。

担当プロジェクトは何としてでも成功させたいし、子供たちとも過ごしたい。業務の負荷が上がっても、ライフワークバランスを成立させる方法がスウェーデンには確かに存在する。

日本では働き方改革が叫ばれて久しいが、いきなり残業をゼロに持っていくのは不可能だろう。まずはこのように在宅勤務を一般的にして、家族や大切な人と過ごす時間を徐々に増やしていくのが、極めて現実的な提案だと考えるがいかがだろうか。

個々のライフスタイルを受け入れ、同僚や取引先を信用し、少しばかりの不便さを受け入れることが、偉大な一歩となるはずだ。

連載:スウェーデン移住エンジニアのライフ&ワーク
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文=吉澤智哉

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