バラク・オバマ前大統領がFCC委員に任命したクライバーンは、両社の合併に反対する公共利益団体を支持する立場と見られていた。
米国では、両社の合併が実現すれば国内の通信市場は大手3社による寡占化が進み、低所得層が通信料金の値上がりや選択肢の減少に直面することになるのではないかと懸念する人も多い。
クライバーンはFCC委員としての8年間の任期中、低所得層や少数派のコミュニティーのニーズに重点を置いてきた。また、ネット中立性やブロードバンドへのアクセス、メディア規制などの問題においても、国民にとっての利益または損失という観点を重視してきた。
そのため、彼女がTモバイルとスプリントを支援することは両社にとって大きな意味を持つ一方、疑問視する人たちもいる。実際のところ、クライバーンは2011年には「公益に反する」として、通信大手AT&TによるTモバイルの買収に反対していた。
だが、クライバーンが政治サイト、ポリティコのインタビューで語ったこところによれば、「顧問としてTモバイルとスプリントに協力するのは、両社がデジタル・ディバイド(情報格差)を解消するための最善の方法として、5G(第5世代移動通信システム)ネットワークの構築を加速しようとしているからだ」という。
全ての人に提供すべきサービス
Tモバイルとスプリントは保有する回線を、主にプリペイド携帯電話のサービスを提供する小規模事業者に販売している。これらの事業者のユーザーは、低所得層や少数派の占める割合が高くなっている。
格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)によると、米国のプリペイド携帯電話市場のシェアは現在、Tモバイルが38%、スプリントが16%だ。また、調査会社ニールセンによれば、スプリントとTモバイルの利用者に占める黒人の割合は、それぞれ15%、14%となっている。
黒人世帯の年収(中央値)は、2016年には3万9000ドル(約430万円)をわずかに上回る金額だった。つまり、Tモバイルがターゲットとする年収7万5000ドル未満の消費者層は、黒人が多くを占めるということになる。
また、S&Pグローバル・マーケット・インテリジェンスのメディア・リサーチ・グループ、ケーガンが公表したデータによれば、スプリントのプリペイド携帯電話部門、ブースト・モバイルのユーザーの83%は、年収が7万5000ドル未満だ。