カユ・プティはオープンキッチンなので、ダイニングルームのすぐ後ろに厨房があり、気軽にシェフやスタッフと話すことができるうえ、ギータンや厨房スタッフも、1テーブルに対して最低2回は厨房から出てきて、ゲストに料理の背景について説明するなど、記憶に残る食体験となるように気を配っていた。
「今は、大手ばかりでなく、個性を押し出したブティックホテルが多く存在します。これからの消費を担う、ミレニアル世代の富裕層は、一泊500ドルを払うことにはこだわりませんが、そこでしか得られない“本当の体験”ができるかにこだわるのです。そんな中で、地元の食材を使い、ストーリーのある食事体験と心に残るコミュニケーションができることは非常に重要なのです」とリゾートのGMであるマーセル・クロエはいう。
建物の外に張り出したテラスには、サンセットを楽しみながら、横になってカクテルやスナックなどを楽しめるシートもあり、特別な時間の演出にひと役買っている。水上レストランならではの贅沢でもあり、静かな海が自慢のランカウイだからこその体験だ。
寝転がってカクテルなどが楽しめるカユ・プティのテラス席
心震える瞬間のために仕事を
「私はこの地で、若いスタッフたちとともに、これまであまりスポットライトが当たってこなかったマレー料理とヨーロッパ料理のフュージョンを試みています。もちろんランカウイでは初めての試みですから、リスクはあります。でも、私は、自分の心が新しい挑戦で震える瞬間のために仕事をしているのです」
ビエスはこう語るが、この小さな島で彼が育んでいるのは、モダンマレーシア料理の可能性だけではなく、これからの時代を担う若いマレーシア人の料理人の育成まで含めた「未来のマレーシア料理」なのかもしれない。
そんなビエスに、最近嬉しいニュースが飛び込んできた。カユ・プティが、マレーシアの飲食店を対象にしたホスピタリティ・アジア・プラチナ・アワードで、「期待をはるかに超えるサービス」「最もイノベーティブなレストラン」の部門で受賞、ビエス本人も、「マスターシェフ」として表彰されたのだ。
「我々にとって初めての賞です。チームの献身が報われてとても嬉しいです。彼らは頑張っている。こういった喜びを、もっと味わせてやりたい」とビエスは語る。
ビエスがシンガポールで2年間心血を注いだレストランはついぞ形になることはなかった。でも、いまランカウイで、現地の若いスタッフとともに働いている彼の目は輝いて見える。若者たちと共に、マレーシアから新しい食のムーブメントを生み出したい。そんな思いが、今ビエスを動かしている。