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2019.02.15

「事業を回すプロになる」エンタメ事業を極めた男が、医療経営で注目を集める理由

水上真(写真=久世和彦)


中途採用でレコード会社、出版社、映画会社などから内定を得たが、水上氏は熟慮の末にオリコンを選んだ。先代の小池聰行社長と現在の小池恒社長が熱心に誘ってくれたことも決め手になったという。

「当時、先代の小池社長は『オリコン第2の創業』と言っていました。音楽だけではなくて、総合エンターテインメントの時代がとっくに来ていると。本もCMも映画もゲームも、いろんなところに音楽が絡んでいく。だからオリコンで自前のコンテンツを保持していこうと。それまでの『オリコンと言えばランキング、出版』といったイメージをより幅広く強化しようというビジョンに共鳴しました」

総合エンターテインメント化に向けて、極めて限られた時間の中、関連するジャンルのコンテンツデータを保有する各企業に飛び込みで交渉し、終日データ集積のために奔走した。その結果、当時の第二マーケティング部の発足へと結実し、音楽と関連するジャンルのランキングが立ち上がった。そのような成果を認められ、25歳で取締役となった。

「統轄本部長として事業全体を見るのと兼任で社長室長だったので、トップの考え方や方針から、ビジョンなどの経営実務を直接勉強させていただきました。『オンリーワン、唯一無二のものを創る』という小池社長の考えは今も大切にしています」

 

時代の先を行ったストリーミング動画事業

その後、2001年にアスキーの関連会社として、「ウェブストリーム」の社長に招へいされた。当時のコンテンツ配信はダウンロード再生が主流だった中、いち早くインターネット上で再生する、先進的な「ストリーミング動画」の事業を展開した。業界内では「時代の先駆者」と呼ばれ、マスコミの注目も高まり、さまざまな業種の企業が販売パートナーや代理店として参加している。

「ウェブストリーム」では、大手のハードメーカー、多くのコンテンツメーカーを束ね、コンテンツビジネスを推進する団体「IMCC」(統合メディアコンテンツコンソーシアム)の業務も担った。

「画期的というか、市場を成熟させるには早すぎる取り組みだったかもしれません。ストリーミング動画のポータルサイト的なものを運営し、高い技術を保有していた企業を束ねました。例えば、音声認識のシステム、映像に登場する人物を特定しプロフィールを表示したほか、視聴ランキングなど、当時としては斬新な技術を開発しました。数あるメーカーの足並みを揃えるのは難しかったですが、それでも温度感が一緒だったので、みんなで知恵を絞り、ビジネス化に向けて邁進できましたね」

老舗のレコード会社でイノベーションを起こす

新たなコンテンツビジネス事業を次々と打ち上げる水上氏に目をつけたのが、日本最古のレコード会社、日本コロムビアだった。当時のコロムビアは外資系企業再生ファンドのリップルウッドに買収され、大きな事業転換を迫られていた時だった。

「日本コロムビアに入らせていただいたのは、外資系企業へと変化したので『企業体質がもっとスピーディになるのでは』という期待値もあったからです。実際に入ってみて、手法や実績にこだわる姿勢に共感しましたし、人も素晴らしかった。そして膨大な過去と現在のコンテンツを生かしながら、スピード感をもって改革していく実績主義が自分に合っていました」

Jポップ、ロック、アニメ、教育、演歌、歌謡曲、クラシック、ジャズの全レーベル事業の制作を統括するほか、アーティストのマネジメント事業、ゲーム事業、そして宣伝部門の統括も兼任。さらにAKB48派生ユニット「Not yet」のレーベル長、神田沙也加率いるユニットの結成、斎藤工のメジャーデビューなど、アーティストの発掘や大型事業なども手がけた。

また、当時芸能部門のノウハウを体得するために、約2年間にわたって芸能プロダクション・オスカープロモーションの宣伝部門の管掌もした。まさに八面六臂の活躍だった。

「コンテンツ制作にしても、アーティストの宣伝にしても、共通する部分は多い。制作する人、アーティストと真剣に向き合い、時にはシビアにこだわることはこだわる。時には温かさをもってホスピタリティを重視する。結局『人と向き合う』ことが、事業の核なんだと思います」
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編集=Forbes JAPAN 編集部

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