「皆さんがスーパーなどでもらう袋も骨折の手当てに使えます」。両側に切り込みを入れた袋で腕を包み、持ち手の部分を首にかけると包帯に様変わりした。初めて目にしたのだろう。永田の実演に、思わず笑ってしまう学生もいた。災害時には身の回りにある物を活用して、さまざまなトラブルを解消する「見立て」の考え方と方法を世界に広めている。
冒頭のシーンは、ニューヨークのパーソンズ美術大学での講義。永田は2017年秋から同大学と「災害+デザイン」の共同プロジェクトを始めた。18年9月末から12月中旬には、同大のギャラリーでクリエイティブな防災活動を紹介する巡回展「EARTH MANUAL PROJECT展」を開催。13年から神戸・KIITO、アジア2カ国5都市を巡り、アメリカで初の展示となった。
開催地では「10+1」という企画を行い、活動の輪を広げてきた。現地のデザインや建築、アートを学ぶ学生や若手クリエイターと共に地域に合った災害を題材にリサーチとワークショップを通じて、新しいコンテンツを展示する。ニューヨークでは、大規模な教育プログラムが生まれた。
地域性から「ハリケーン」「大停電」「テロ」を題材に専門チームのリサーチ結果が学生に提供され、作品やプランをデザインした。プロダクト、照明、建築、都市など多様な分野のデザインを学ぶ約300人が参加。大判の画用紙にアルミホイールを付けた照明や、緊急時に犬などペットをベルトで台座に固定して背負うバックパック、ダンボールで作った靴など多くのアイデアが生まれた。
永田は「日本でもここまでダイナミックな授業を見たことがない」と目を見張る。
きっかけは16年、タイでの巡回展を研修中のパーソンズ美術大講師陣がたまたま見かけ、声を掛けたことだった。一行は帰国後に大学での開催を提案したものの、他の講師陣たちの反応は今ひとつだった。ニューヨークは自然災害が多くなく、防災意識が根付いているわけではない。永田自身も「エンターテインメントの世界と防災は縁遠い」と認める。
潮目が変わったのは、環境構築学科長のロバート・カークライドが深く共感したことから。講師陣に、永田が監修するNHKのウェブサイト「つくってまもろう(HOW TO CRAFT SAFTY)」の動画を見せたのだ。ゴミ袋で防寒着や災害用シェルターを作ったり、いくつかの上着の袖を2本の棒に通して担架を組み立てたり、身の回りの物を使った防災のアイデアを次々と紹介するものだ。
「これは面白い!」。言葉だけでは動かなかった講師陣がクリエイティブの力で心を動かされた瞬間だった。