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フォーブスジャパン編集部

貝印の経営戦略本部 広報・宣伝部部長 鈴木曜(左)、商品本部 デザイン室チーフマネージャー 大塚淳(右)

ポケットナイフ工場として歩み始めた貝印は、長い時を経て世界に認められる数々の良品を生み出す企業に成長した。新しい時代に適応するブランドの作り方を探った。


刃物の街・岐阜県関市で、1908年、貝印は小さなポケットナイフ工場として誕生した。現在は1万点以上の製品を取り扱い、年間461億円(2017年度)を売り上げるグローバルカンパニーとなった。その歴史は110年。56年から刃物製品を輸出し、欧米とアジア各国に12拠点を持つ。10年よりグッドデザイン賞を9年連続で受賞し、美しさと機能性を兼ね備えたキッチン用品や美容品は広く愛される。

デザイン室でグラフィックデザインチームを率いるのは、大塚淳だ。

「これを持って撮るのっておかしくないですか」
 
そう笑いながら大塚が手に持ち撮影に臨んだのは、16年度の受賞製品「ピュアコマチ グレーター」。外形はシンプルだが刃の部分は市松模様などがさりげなく施してあり、切れ味の良さと日本らしさを表現。欧州を中心に販売する。「デザインはデコレーションではなく、お客様にアイデアを提供するもの」と話すように、機能にも注目したい。意匠が施された刃の部分は凹凸が少なく、洗いやすいのだ。

「刃物は超成熟商品。切れ味が良いのは当たり前」と語る大塚は、日本の美意識として「Silent Beauty」を追求する。アイデアを考える際には、同時に削ぎ落とす作業を大切にする。

18年度受賞の「SELECT100 ボウル」は通常のキッチンボウルの端を三角形状にして持ちやすく、別の容器に流し込みやすい設計に。伏せて置くと隙間ができ、洗浄後の水分がボウル内に残らないようにした。ボウルの端は揺らいだカーブのように見え、清潔かつ繊細なデザインだ。

大塚のインスピレーションは何か。「母がお茶をやっていたことから、個人的に武将の茶入れなどが好きです」。参考にするのは「見立ての視点」や「わびさび」の美意識。デザイン過程では感覚に頼らず「貝印としてやることかどうか」を徹底する。

デザインだけでは顧客の心には刺さらない時代。ましてや多品種を扱う貝印は、ターゲットの年齢層も国籍も違う。その発信方法もユニークだ。

グローバルに発信する社内報「FACT magazine」を日英併記のフリーペーパー(1万部季刊)とホームページ上で展開する。ポートランドや上海、大阪など貝印の拠点がある都市の特集を組み、社員や製品だけでなく街角のクリエイターや店など、街の空気感を伝える。社員がプロのカメラマンやデザイナーと協力して作り上げる。

生活用品を生み出す貝印らしくクラフト紙で手触り感にもこだわり、16年日本タウン誌・フリーペーパー大賞などの受賞歴がある。10年からは俳優であり社会起業家の伊勢谷友介をナビゲーターに迎え、ラジオ番組「KAI presents EARTH RADIO」のスポンサーとして番組の企画段階から関わる。

なぜ老舗ながらクリエイティブにこだわるのか。広報・宣伝部部長の鈴木曜は「味のあるスタイルで、老舗だからこそ未来を見据えた活動をしています」と答えた。

鈴木は元々、スウェーデン発クリエイティブエージェンシー「グレートワークス」日本法人代表のクリエイティブディレクター。12年に貝印が同社の日本法人と中国法人を買収し、子会社となった。「社長がクリエイティブに明るく、新しいものに寛容」と明かす。

FACT magazineには最後に、思わずクスッと笑ってしまうコーナーがある。「Hello Boss, 社長、なにしてますか?」。

KAIグループ代表取締役兼社長遠藤宏治が、地元関市で行きつけのそば店や、妻との若き日のデート秘話、ヘッドスパをする姿などを公開し、良い意味で憎い演出だ。情報が溢れる世の中で、刃物企業として向かう先を鈴木はこう示す。「カッティングエッジなコンテンツを制作し、五感で感じてもらうブランドとして存在感を出したい」


大塚 淳◎商品本部 デザイン室チーフマネージャー。岐阜市出身。2009年貝印にUターン就職。鈴木 曜◎経営戦略本部 広報・宣伝部部長。「グレートワークス」現在は取締役。

文=督あかり 写真=帆足宗洋

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