味覚は記憶を呼び起こす 美味しいだけじゃない「海苔弁」の魅力

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そんな海苔弁を最高のクオリティで追及したのがこちら。「根津松本」の1日30個限定の「のり弁」(2916円)だ。「ライバルは銀座の鮨屋」と語る、松本秀樹さんによる“日本一の魚屋”が作る弁当だけあって、吟味された海苔、北海道産時鮭、自家製銀だらの西京漬けが海苔弁の上を華麗に彩る。



ただこの「のり弁」、少々豪華すぎて海苔が見えないのと、肝心の海苔弁部分が“一段”なのが玉にキズ。まあ、そんな細かいこと気にするのは私だけか。

こんなゴージャスな海苔弁もいいが、一面真っ黒で、はしっこにからあげや焼鮭、ちくわの磯部揚げがのっかっているようなひなびた海苔弁も好きだ。海苔が切れていないから、ごはんの水分で湿った海苔がずるずると全部箸に巻き取られてしまう。ちょっと「ごはんですよ」のようになった海苔を少しずつごはんと口に運ぶ。

そんな海苔弁を食べていると、一気にあのころの教室まで、時空を超えて運ばれていくような錯覚を覚えるから不思議だ。

お尻の部分がテカテカになった紺サージのプリーツスカートや、授業中にまわされる他愛もないメモ、教科書を立ててこっそり食べていた惣菜パン、隣の子の貧乏ゆすりや、クスクス笑い……味覚はいつも記憶を呼び起こす。

新しい美味や、最上のひと皿を追及するばかりではなく、旧知の味やB級へ走りたくなるのは、あの時代へ戻り、追憶を味わいたいからなのかもしれない。

根津松本
東京都文京区根津1-26-5 03-5913-7353 
11:00〜19:00(予約は10:00~、「のり弁」は要予約)日・祝休

連載 : いまおいしい、いま知りたい食のトレンド最前線
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文=秋山都

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