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2019.02.17 18:00

味覚は記憶を呼び起こす 美味しいだけじゃない「海苔弁」の魅力

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行きつけの鮨屋のおかみさんから、「年始のご挨拶に」と海苔をいただいた。

「今年の新海苔、焼いてもらったばっかりだからおいしいですよ」と言われたけれど、新海苔ってなんだろう? 調べてみたら、海苔は毎年11月から収穫が始まり、12月~3月が新海苔が出回る旬なのだそうだ。

乾物に旬はないと思い込んでいた私、半信半疑ながら手巻き寿司に使ってみたら、香りといい、風味といい、そしてパリっとした食感といい、何もかも私が見知っていた海苔とは段違いのおいしさであった。

その日の手巻き寿司には本マグロの大トロや、昆布じめにした鯛を用意していたが、海苔ですし飯とわさびを巻いてちょっとお醤油をつけて食べたのがいちばんおいしかったなぁ。招いた友人からも「海苔がおいしかった!」と言われ、ホストとしては少々複雑な気分だったけれども。

1980年代、海苔弁の思い出

こんなおいしい海苔があるなら、久々に海苔弁が食べたくなった。私は中学・高校と6年間お弁当生活だったが、その大半を占めていたのが、母のつくる海苔弁だった。弁当箱にまずごはんを薄く敷き詰め、その上に醤油で湿したおかかを散らし、さらにごはん、一番上に海苔を敷くのが我が家の定番海苔弁。

昼時にお弁当箱をパカッと開けると、一番上の海苔はフタに持っていかれてしまい、ところどころに海苔の残骸が薄紫色のシミをつけたごはんだけが教室の蛍光灯にさらされる。急に友人たちの視線が気になり、フタの海苔をこそげとるようにごはんの上に戻したっけ。

母のお弁当は、出来合いの惣菜や冷凍食品を使わないという志こそ立派だったが、いまのキャラ弁のようにこどもの歓心を引こうとするわけでもなく、おかずは茶色のひと色。級友の弁当のようにプチトマトや玉子焼きを入れてカラフルにしてほしいという私のリクエストは、「あんた野菜嫌いじゃない」「朝から玉子焼き作るのはめんどくさい」と一蹴された。

良くも悪くも親がこどもに媚びない時代だったのだ、1980年代前半は。

とまれ、昔も今も海苔弁はシンプルでおいしい。作家の向田邦子氏は日々の食卓についてのエッセイを多く遺しているが、海苔弁についてもこんな一説を記している。

「日本に帰って、いちばん先に作ったものは、海苔弁である。まずおいしいごはんを炊く。十分に蒸らしてから、塗りのお弁当箱にふわりと三文の一ほど平らにつめる。かつお節を醤油でしめらせたものを、うすく敷き、その上に火取って八枚切りにした海苔をのせる。これを三回くりかえし、いちばん上に、蓋にくっつかないよう、ごはん粒をひとならべするようにほんの少し、ごはんをのせてから、蓋として、五分ほど蒸らしていただく」──「海苔と卵と朝めし」(河出書房新社)
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文=秋山都

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