僕が出会う外国人観光客に話を聞くと、ひと昔前の彼らの行き先といえば、もっぱら京都、大阪、広島ばかりだったが、最近では松本や飛騨高山から富山、能登などのドラゴンルート(愛知県、岐阜県、富山県、石川県を南から北へと縦断する観光ルート。能登半島が龍の頭の形をしていることに由来)を巡る人も多いようだ。
リピーターとなる訪日観光客が増え、彼らの新たな日本での旅先として、いわゆるメジャー観光地ではない地域にも外国人の興味が集まっている。
そんな流れを受けて、東北を訪れる訪日観光客も増加傾向にある。2018年上半期のデータによると、東北に宿泊した外国人宿泊者数は、前年比で40%に近い伸び率を記録した。しかし、それでも東北に足を伸ばす訪日観光客は、日本を訪れる人のわずか1%程だという。
そんな東北に、さらに訪日観光客を呼び込もうと活動している人がいる。青森県弘前市で旅行会社「たびすけ」を経営する西谷雷佐さんだ。西谷さんは、生まれも育ちも弘前。地元の高校を卒業後にアメリカへと留学し、現地の大学で産業心理学とスピーチコミュニケーションを学んだ。その後、日本に帰国して弘前の旅行会社に就職。そこで、弘前のりんご農家を海外への研修旅行に連れて行くというツアーを提案するなどして一躍成果を上げた。
スタッフはみな「介護資格」を持っている
西谷さんが独立して、自分の会社を立ち上げたのは、2012年のこと。前年に日本商工会議所青年部が主催するビジネスプランコンテストでグランプリをとったことがきっかけだ。そのアイデアをかたちにしたものが、現在の「たびすけ」となる。
たびすけは、スタッフが介護資格を持っていることが特徴だ。「どうせ、これからの高齢化社会を睨んで、受け入れる観光客の幅を広げたいという目論見なんだろうなあ」、と思いながらも、なぜ旅行会社が介護なのかと聞いてみると、こちらの安直な予想は見事に外れた。
「介護というと、バリアフリーを連想すると思うんです。物理的障害。でも、旅行者にとっては、物理的ではない障害もあるんです。それが、心のバリアフリー。たとえば外国人旅行者にとっては、言葉が通じないことも障害のひとつですし、同じ日本人でも、南国から雪国の青森に旅行に来たら、そこには文化的な障害もあります」
西谷さんは、それらすべてを取り払うのが、旅行者にとってのバリアフリーだと考えたという。
「実際にそれが実現できたら、観光客に満足してもらえるに違いない。では、そのアイデアをどうやってビジネスにするか。そんな視点で考えた企画が、ビジネスプランコンテストで評価されたんです」