これらのツアーに共通しているのは、「青森の人々の暮らしのなかに、元々あるものを活かしている」ということだ。西谷さんは、こう続ける。
「観光客を呼び寄せるために、わざわざイベントや施設をつくる必要はないんです。持続的に観光業を発展させていくためには、新しく何かをつくって“観光地”をつくるのではなく、青森に暮らす人や、いまあるものを活かして、地域に根ざした“観光地域”をつくっていくことが、今後求められると思うんです」
昨年末、西谷さんの案内で弘前を旅したが、まさにそれは地域に根ざした、人々のあたたかさに触れる旅だった。
昼食では「津軽あかつきの会」を訪れたが、正直言って、知っている料理がひとつもなかった。お膳にのって運ばれた10品以上の料理のすべてが、弘前の農家で受け継がれてきた津軽の伝承料理だったからだ。農家のお母さんたちの津軽弁を聞きながら、弘前ならではの保存食を使った料理を味わえば、「ここでしかできない体験をしたい」という旅人の欲求が、これ以上なく満たされる。
他にも、「弘前シードル工房kimori」で、当地のりんご産業の歴史や現状を学びながらシードルを飲んだり、弘前中央食品市場にある山田商店で名物の大学芋をかじりながら店主の話に付き合ったり、西谷さんが扮する「弘前路地裏探偵団」に夜の弘前の街を案内してもらったりすると、初めて訪れた土地であるにも関わらず、どうしても弘前の街や人に親近感を感じてきてしまう。
そうなれば、もう西谷さんの術中にはまっている。
観光は地域づくりと人づくり
「あの人に会いたいから旅をするというのは、旅に出るすごく綺麗な理由だと思うんです。知っている人がいたら、またその街に行きたくなるじゃないですか。だから観光とは、地域づくりと人づくりなんです」
世に観光名所はあまたあれど、そのような場所には、一度行けば満足してしまうところも多い。しかし、「あの人に会いに行く」となれば、それこそ1年に1回くらいは足を運ばなければという使命感にかられたりもする。結局、観光地にとっていちばんのキラーコンテンツとなるのは、そこにある顔、そこに暮らす人々そのものなのだろう。
西谷さんはいま、活動の拠点を弘前から仙台に移している。地域に根ざした観光の輪を、青森から東北全域に広げるためだ。
「青森だけに来る観光客って、あまりいないじゃないですか。東京から新幹線で来るにしても、仙台だったり岩手だったり、東北の他の地域を通って青森に来るわけですから。そうなると、東北全体で観光地域づくりや人づくりを進めて行かなければならないのです。」
2016年、西谷さんは東北で活動する仲間たちと「東北インアウトバウンド連合」を立ち上げ、現在は理事長を務めている。東北ならではの「人」と「暮らしぶり」を活かした取り組みの数々は、今後ますます世界中の旅行者の注目を集めていきそうである。
連載:世界漫遊の放送作家が教える「旅番組の舞台裏」
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