我々が外国に行った時のことを想像すれば、西谷さんの言うことはすぐに理解できる。知らない土地で電車に乗ることは、それだけで大仕事だし、レストランに入って席を用意してもらうだけでも緊張したりする。日常ではなんて事のない些細なことが、旅行中にストレスを感じる大きな要因となるのだ。
西谷さんは、アメリカで暮らした経験や語学力を活かし、そのようなストレスを極限まで減らして旅行者が純粋に旅行を楽しめるようにサポートをしている。旅先と日常との文化的、精神的ギャップというのは、観光を推進していくうえでとても重要なファクターとなる。そもそも外国人観光客は、異文化に触れるために日本にやってくるからだ。
外国人観光客が日本の観光地に求める主たる要素として、その土地ならではの食、文化、温泉というものがあるそうだ。東京や京都、その他の日本の地域にはない文化を持ち、さらに温泉にも恵まれる東北には、まだまだ外国人観光客数を伸ばすポテンシャルがあるのだ。
とはいえ、いちばんの問題点は、その東北の魅力が世界に伝わっていないことにある。西谷さんによると、少し前の外国の旅行ガイド本には、「Northern Kanto」という項目のなかで東北が紹介されていたそうだ。世界的にみれば「TOHOKU」という観光地の知名度は、圧倒的に低いのだ。
「短命県体験ツアー」を企画
問題はそれだけではない。
「東北人は、京都の人たちとは違って、“自分たちが観光地に暮らしている”という意識が希薄なんです。だから、観光にも積極的に取り組もうとしていない。でも、東北の伝統的な暮らしのなかには、外からきた観光客に面白がってもらえるものが多いんです。ですから、観光地としての東北を盛り上げていくためには、“東北に暮らす人”の“東北ならではの暮らしぶり”が重要になると考えているんです」
実は、西谷さんの地元である青森県は、日本一の短命県として知られている。その原因として、1人あたりのアルコールの摂取量やインスタントラーメンの消費量、塩分摂取量が全国ランキングの上位だということがメディアで取り挙げられている。しかし、西谷さんはそれを逆手に取り、なんと「短命県体験ツアー〜青森県がお前をKILL〜」というツアーを企画した。
まずツアーは、午前中の酒蔵見学から始まる。朝から日本酒を飲み、お昼は青森名物の煮干しラーメンを汁まで完食。食後は津軽の伝統工芸「こぎん刺し」体験で神経をすり減らしたのち、夕方からは再び晩酌……といった感じで、青森県が短命県たる所以をあますところなく体験できるツアーとなっている。
地域の祭りにも全力で参加する。
なんといってもネーミングにインパクトがあるし、良くも悪くも青森県ならではの暮らしぶりを活かしたこのツアーは大きな話題を呼んだ。他にも、西谷さんが企画するツアーには「津軽石拾い」「雪かき体験ツアー」「りんごの剪定ツアー」「歌碑を巡って津軽海峡冬景色を歌うツアー」など、青森県だからこそ企画可能なものが多い。