トランプの壁と移民政策、得をするのは麻薬組織

ドナルド・トランプ米大統領(Photo by Joe Raedle/Getty Images)


米紙USAトゥデーは、ホンジュラスの街のギャングを逃れ、米国での難民申請を目指していたリリアン・メネンデスのこんな状況を伝えている。

「テキサス州マッカレン、そして米国という安全地帯へと続く国境の橋で門前払いを受けたメネンデスは、リオグランデ川をボートで渡る料金として密輸業者が要求する1万ドル(約110万円)をかき集めるため、親戚らに電話をかけていると語った。

川を渡ったら、国境警備員に自首し、難民申請ができる。1月1日から国境付近の移民収容施設に滞在しているメネンデスは『今は必死な状態です』と語った。『橋を渡って難民申請をするはずだったけれど、それはできないと言われました』」

米国土安全保障省(DHS)監察長官事務所の報告書も、検問所でのメータリングが密入国の助長につながったと認めている。同報告書は「ある国境警備監督者によると、外国人が国境検問所で制御されると不法入国が増加することが、国境警備隊によって確認されている」としている。

トランプ大統領の政策によって廃業に追い込まれるとされる密入国ビジネスは、同政権の難民政策によって生まれた状況の恩恵を受けている。ジョージ・メイソン大学のグアダルーペ・コレアカブレラ教授は「リオグランデバレーでは、独立した密入国業者たちが、必死な移民に対し川を渡る米国入国と引き換えに法外な料金を要求している」と述べた。

同教授はUSAトゥデー紙に対し「そして密入国業者は、さらに大きな『ロス・セタス』や『カルテル・デル・ゴルフォ』などの犯罪組織に料金を支払う。中米の密入国業者から、国境沿いの独立密輸業者、さらにはカルテルまで、全員が金をかせいでいる」と語った。

私はこれまで、米国とメキシコの国境付近で移民危機は起きていないことを示すデータを分析し、いくつか記事を書いてきた。2018年に米南西部国境地帯での国境警備活動により拘束された人の数は、過去46年間で5番目に低い水準だった。さらに、NPOの移民研究センターは「不法滞在者の総数は、2010年から17年までの間に約100万人減った」としている。

出稼ぎ労働者向けビザの整備を

米国に国境の危機は存在しない。しかし、ホンジュラスやグアテマラから身の安全や経済機会、あるいはその両方を求め、家族と共に米国を目指す人々に対応する上での問題はある。

米政権は、検問所で難民申請者を「制御」するべきではない。米国は、新たな法律や二国間協定を通し、個人が短期ビザで合法的に働くための選択肢を増やすべきだ。移民弁護士のマシュー・コルケンは「不法入国経路を支配する犯罪者たちによって食い物にされるかもしれない危険な旅をする代わりに、入国ビザが申請できるような出稼ぎ労働者プログラムを提供すれば、多くの人がビザ申請をできるようになり、難民申請者の数を減らすことができるだろう」と述べている。

仕事と安全な環境を求めるための合法的な選択肢が増えれば、カルテルや密入国業者を使う必要性はなくなる。一般教書演説などのスピーチで密入国業者の利用を批判するよりも、不法入国を助ける業者に個人や家族が翻弄(ほんろう)されないような、実現可能な選択肢を与えるべきだろう。

編集=遠藤宗生

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