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2019.02.12

「ロンドンのアフリカ料理」で初のミシュラン獲得 幼なじみが挑む革新的な味とは

「イコイ」共同創業者・ジェレミー・チャンと ハッサン=オドゥカレ(Photo by P.A Jorgensen)


「料理は、材料のクリエイティブな解釈によって作られるべきです」。「イコイ」に通いつめた、私のめくるめく「アフリカの食」週間をしめくくるにふさわしく、チャンはこんな謎めいたことを言った。「お客さんと原始的なつながりが持てる一皿を、と思っています。ありとあらゆる先入感をそこで取り除こうと」

「イコイ」は、ミシュランの星をロンドンで初めて獲得した「アフリカ料理」レストランだが、「アフリカ大陸」というレッテルはここではますますそぐわないように見える。


プランテーン、ラズベリーと燻製スコッチ・ボネット

料理を待つ人の期待にこれでもかと挑戦するような作品の数々は、実に激しく、食す人の予想を裏切る。それくらい、ここの料理とその生みの親であるジェレミー・チャンとイレ・ハッサン=オドゥカレの個性は強烈だ(シェフのチャンはメディア向け資料の中で、自分の料理を抽象画家マーク・ロスコの絵画になぞらえているが、このたとえをうぬぼれと感じる記者もいるだろう。著者自身は、好ましくも果敢であると感じたし、的を射た表現だと思った)。

前菜〈プランテーン、ラズベリーと燻製スコッチ・ボネット〉(写真)は、日本のアートディレクター石岡瑛子が考案するファンタジー衣装のスケッチのようでもある。

酸味の強いラズベリー塩をまぶされて赤紫色に染まったプランテーンの大きなスライスには、柑橘の香りがきいたスコッチ・ボネット種の激辛唐辛子を練りこんだサフラン色のマヨネーズの塊が添えられている。プランテーンは濃厚で甘く、ラズベリー塩は子どもの頃に好きだった、あのパチパチはじける粉キャンディを思い出させる。

だが、そこに通奏低音として流れるのは、あくまでも乳化されたスコッチ・ボネットの温かさだ。風変わりで、食すと気分がぱっと華やぐ、ちょっと「スター・トレック」風の一皿。「USSエンタープライズ号」のプライベートエリアで宇宙人の特使が供されそうな、SF趣味の料理だ。

「料理は食べる人を虜にしないと」とチャン。「食べる人に、皿を見たとき『こいつを壊してやる!』と思ってもらいたい。だから、たとえばポークチョップなら、生きていた時よりもブタらしく見えるように心がけています。まあ、デフォルメされたブタ、という感じですかね。これはあなたが仕留めたんですよ! というプレゼンテーションになれば。美意識に訴え、かつ、美味。2つを同時に実現したいんです」

翻訳=松本裕/トランネット 編集=石井節子 写真=Forbes Africa提供

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