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ネスレ日本の高岡浩三社長(撮影=岡田晃奈)

「テレビの制作会社って、今、とても困っていると思うんです。テレビ番組を見ていると、番組制作にお金をかけられなくなっているのがわかる。そのしわ寄せは制作会社にもいっているはずです」

そう話すのは、長年、広告主として多くの番組のスポンサーをしてきたネスレ日本の高岡浩三社長だ。1月に都内で開催した「高岡イノベーションスクール(TIS)」の講義で、テレビ業界のイノベーションについて語った。講義には企業内で新規事業を担当する若手〜中堅社員が参加。企業内でのイノベーションの起こし方について議論する中で、高岡がネスレ日本での成功事例を解説した。

35年前にネスレ日本に入社した当時、同社は年間400億円の広告費を使っていたという。テレビ業界にとっては、トップクライアントだった。

「ネスカフェ ゴールドブレンドを担当していた頃は『日曜洋画劇場』に出稿していました。当時、もっとも広告料が高い番組で、1回600万円払っていた。当時はテレビしかありませんでしたから」

だが、今はテレビCMには懐疑的だ。視聴率の低迷も問題だが、テレビ機器本体の進化が追い討ちをかけた。高岡は言う。

「ボタン一つ番組を録画できるようになり、さらには30秒スキップボタンが付いてCMを飛ばせるようになった。『最悪や』って思いましたね」



視聴率も低迷しているうえに、広告はボタン一つでスキップされてしまう。広告主からしたらたまったものではない。広告主がテレビから離れ、制作費がかけられなくなると、制作会社が苦しくなるはず。そこに、高岡は目を付けた。

「困っている人たち」を集めて得た気づき

ネスレ日本は、独自にショートムービーを製作し、YouTubeで公開する「ネスレシアター」を運営している。これは高岡のアイデアから始まった日本独自の取り組みだ。映画監督の岩井俊二の「花とアリス」など著名な映画監督によるコンテンツが揃う。短いストーリーの中にさりげなくコーヒーが出てきて、ネスレの商品にアクセスしたくなるような仕掛けがされている。

なぜ、著名な映画監督や制作会社が、ネスレのショートムービー制作に協力したのか。高岡は言う。

「映画監督を10人くらい集めて議論した時に、僕は初めて映画監督が大変な仕事だってわかったんです」

映画監督の報酬は歩合制となることが多いうえに、途中で企画が立ち消えになることもある。その際、準備にかかった費用は自腹で、赤字になることもある。最後まで製作しても、ヒットしないと大した報酬はもらえない──映画監督と話す中で、彼らの置かれた厳しい現状がわかってきた。

そこで、高岡がショートムービーの製作を依頼すると、岩井俊二や、『踊る大捜査線』の本広克行、『君の膵臓をたべたい』の月川翔、といった錚々たる映画監督が協力してくれた。

こうした動画に字幕をつけて公開すると、中国や韓国でも視聴されるように。中国や韓国からの旅行客が、お土産にキットカットの抹茶味を買って帰ってくれるようになった。

「インターネットをうまく使ってコンテンツを配信することで、コミュニケーションが国境を超えた。ネスレシアターは『新しい現実』に対応して様々な課題を解決したと言っていいでしょう」

文=大木戸歩

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