スタバ元会長が大統領選に出馬したら、一体何が起こるのか?

ハワード・シュルツ(Photo by Joshua Lott/Getty Images)


この分野で権威のブルッキングス研究所のウィリアム・ギャルストン教授も、「選挙で40%しか得票できないであろうトランプが、あなたのせいで当選するということは、あなたの言うアメリカが勝利するという主旨に沿うのか? 多くの人はあなたを決して許さない」と極めて辛辣に、まるで脅迫のようにシュルツに迫っている。

そもそもシュルツを誹謗する人たちは、アメリカの民主主義が完璧なシステムであることを前提としているようにも聞こえるが、国民は誰もそんなものは初めから期待していない。おそらく選挙人制度(各州の投票で「勝者総取り方式」によって軍配が挙げられた候補にのみ、州の選挙人が投票をするという仕組み)による間接選挙を憲法改正してやめないかぎり、一般投票数と選挙人投票の乖離に、アメリカ国民は永遠に苦しめられ続ける。

2000年の大統領選挙では、一般投票ではアル・ゴア副大統領が多数票をとっていたが、選挙人投票で勝ったジョージ・W・ブッシュが大統領となった。また前回の2016年では、同様にヒラリー・クリントン候補が多数票をとりながら、選挙人投票ではトランプ候補に負けている。

説得力あるシュルツの言葉

シュルツが主張するように、トランプの極端な右寄り政策、そして対抗馬の民主党ハリス候補のトランプを意識した極端な左寄り政策(たとえば現在の民間健康保険をすべて解散させ、国民皆保険制度に移行する)も、結局、多くの国民の意思を反映していない。シュルツによれば、国民の42%はより中道を求めていて、声高に端に寄っていく特定の政党からは心が離れていると言う。

政党の陣取り合戦の戦術戦略に拘束される二党政治の限界を指摘するシュルツの言葉には、現在のトランプの暴走と民主党の迷走を見ている限り、とても説得力がある。


(Photo by Mark Wilson/Getty Images)

元民主党で、考え方もリベラルであるシュルツが、民主党の票を割るというのはおそらく現時点では確度の高い推測だろうが、それもいささか拙速な判断だという気もする。シュルツが集める浮動票は、選挙本番直前に(かつて数えきれないほどの前例があるように)現実を見た彼が撤退することになったとき、この浮動票は民主党に着地する可能性も少なくない。

むしろ、二党しかないという選択肢よりも、第三の選択肢があるほうが、たとえそれがトランプの再選を確約することになろうとも、それぞれの候補の公約内容にも影響を与えるはずで、立体的なディベートやキャンペーンになることでのメリットも多い。

おそらくメディアがまったく無視している事実の核心は、「極端なものを求めたくない」という国民の声を、「浮動票」などという差別的な見方で見下しているという点だ。その意味で、シュルツの出馬にはとても意味があるように思える。

ひとつ言えることは、選挙にこれまで以上にお金がかかり、アメリカのテレビとネットの広告は、かつてないほど選挙広告であふれることになる。おそらくアメリカで流される東京オリンピックのコマーシャルも、選挙関連のCMで蔽い尽くされ、アメリカ国民はそれどころではなくなる。オリンピックの開催国である日本としては、ちょっと悲しいことになるかもしれない。

連載 : ラスベガス発 U.S.A.スプリット通信
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文=長野慶太

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