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2019.02.08

春節インバウンド対策は「ライブコマース」から学べ

撮影用スマホに語りかけるセーラームーンさんは中国の大連出身


中国のECサイトと連動し、KOLのライブ中継を動画配信するリアルタイム販売は「ライブコマース」と呼ばれている。ひとことでいえば、テレビショッピングの進化形だ。日本では1970年代に始まった古い販売手法のひとつであるテレビショッピングでは、いまでも不特定多数の視聴者に向けて番組を制作し、電話で予約注文を受け付けている。

だが、中国のライブコマースでは、KOLによって絞り込まれたターゲットに対してのみ商品をPRし、スマホ片手の消費者に即時販売する。番組制作も含め、コストを大幅に抑えられるのも特徴だ。

この仕組みを構築するには、日中の提携が必要となる。中国側にはセーラームーンさんのようなKOL約100名を束ねた上海のプロダクションが控えている。いわば、KOLのタレント事務所である。ファッションや化粧品など、それぞれ個別のジャンルを得意とする彼女たちは、日々、各地に派遣され、ライブコマースを行っている。

一方、今回、日本側で中継を担当したのは東京メトロポリタンテレビジョン(TOKYO MX編成局)だ。同社は急成長する中国のEC市場に注目し、ネット時代に適応した新たなプラットフォームを開発している。

「自分が認めたもの」だけ

日本企業を相手に中国向けライブコマースを提案している前述の佐々木代表によると、「セーラームーンさんは、自分の認めた商品しかライブコマースをやらない。そうでなければ、ただの販売セールスと変わらなくなるからだ。ファンもそれでは彼女を信用しなくなる。ファッションリーダーである彼女が選んだブランドだからこそ、視聴者は目を向ける」と語る。

実際、セーラームーンさんは、約3時間近く、休みも取らず精力的に商品PRを続けた。視聴者が飽きないよう、ときに撮影用スマホを手にして立ち上がると、同社の商品が並ぶブースを自ら映し、解説したり、自分の手に実際にクリームを塗る姿を映像にしたりして伝えることも忘れない。そんな彼女の姿や語りで、ブランドの信用は担保されるのだ。


撮影用スマホで製品を映すセーラームーンさん

興味深いのは、彼女たちKOLには、基本的にライブコマースの出演ギャラはないということ。あくまで売上の一部をマージンとしてもらうことで「稼ぎ」を得るということに徹しているという。それだけに、商品の売上を上げようと説明にも力が入る。

あくまで語りの内容は中国の消費者に向けたものであり、企業の用意したセールスポイントをただ代弁するわけではないのだ。そうでなければ中国では売れないのである。

セーラームーンさんは、通り一遍の商品解説をするのではなく、まるでラジオのDJのように、まず日々の出来事を語り、女性同士でおしゃべりするように、さりげなく商品PRをしている。視聴者はその姿を見て、同じ女性として憧れと共感を抱いているのだ。


製品を実際に使って見せることで視聴者に訴える

これは、いかにも今日の中国らしい販売手法といえるだろう。ネットの向こうにはどんな消費者がいるのだろうか。未知の消費者と日本企業をつないでくれるのが彼女たちKOLであり、「ライブコマース」という販売手法なのである。理解すべきは、このような親密なネット空間を通じて、中国の人たちの消費マインドが生まれているというリアルな現実だ。
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文・写真=中村正人

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