リペ島内にはATMも設置されている
バンガローは客のほとんどがバックパッカー。エアコンやサービスが一切ない代わりに、安価に宿泊できる。1600バーツのホテルは、日本のビジネスホテル風のベッド、内装の宿だった。
リゾートホテルは、文句なしに素晴らしかった。部屋は独立したコテージタイプで、高級感のあるキングサイズのベッドが中央に鎮座する。目の前のビーチには、ホテル専用のリクライニングチェア。トロピカルドリンク片手に波の音を聞いて過ごすと、一日があっという間だ。
蚊の飛ぶ音が聞こえて手で払おうとした瞬間、脇からすっと虫除けクリームが差し出されたのには驚いた。さすが、リゾート地の星付きホテルは違う。海を眺めながらいただくコンチネンタルスタイルの朝食も宿泊料に含まれており、これで約9000円とは良心的だと感じた(ただしオンシーズンは何割か高くなる)。
ビーチを散歩中に出会ったリペ島の子供達。笑顔で遊泳に興じていた
「辺境」ともいえる場所に位置するリペ島は、ローカルの暮らしが多分に残る。港の近くには集落があり、島内を散歩すれば、サッカーに興じる地元の子供たちと出くわす。
メインストリートから離れたローカル御用達の飲食店は、リーズナブルに食事を楽しむことができる。元バックパッカーの筆者としては(今もバックパッカーみたいなものだが)、地元の子供たちとのふれあいや島に残る原風景が、たまらなく嬉しかった。
メインストリートから外れた場所にある飲食店は、どこもリーズナブル。少しシャイで優しい地元の人々が集う
太陽が落ちて空が黄金に輝くころ、島内をランニングした。中心部を離れ、熱帯林の残る、西へ、西へと駆ける。すると、至る場所で工事が進んでいた。市場の需要がそうさせるのか。ビーチ沿いは建物がひしめきあい、小さな一戸建てすらすでに建設は不可能だ。生い茂る熱帯林に重機が入り、開発が続く。しかしながら小さな島だけに、もう先は見えている。
リペ島の「サンセットビーチ」にたどり着くと、黄金に輝く夕日が迎えてくれた
「そろそろ別の島を探した方がいい」
シュノーケリングツアーで最後に訪れたスポットでも、気になる光景を目にした。サンゴの白化だ。しかも複数箇所で。ここ、リペ島ですら、残された時間は少ないのかもしれない。
滞在中、さまざまな島で建設作業に従事してきたというタイ人男性と仲良くなった。空いた缶ビールが地面に何本も転がり、そろそろお開きといった雰囲気になったころ。男性はこう耳打ちしてきた。
「この島も物価がだいぶ上がってきた。そろそろ別の島を探した方がいい」
そして、男性はある2つの島を教えてくれた。それは、聞いたことのない名前だった。物価が安く、人が少ない。それでいて美しい自然がある。ただし、アクセスはよくない。今、そこでは開発合戦が繰り広げられているという。
島内のゴミを回収する車両。朝になるとホテル前に大量のゴミが積み上げられていた
東南アジアの離島に関して言えば、リゾート開発とは、一気に稼げるだけ稼ぐ「焼畑」的なビジネスの側面もある。これは、資本主義の原理からすれば当然のことかもしれない。しかし、業者や客にとっての「旬」が過ぎた土地は、時代に取り残されてしまう。一方で地元の住民たちは、そこで暮らしていくほかにない。世界中で、「思い」や「感情」が置き去りのマーケティングが、日々進められている。
この数十年のマーケティングは、あらゆるステークホルダー(利害関係者)の「思い」「感情」が軽視されてきた。最近ようやく愛着を持つ状態を指す「エンゲージメント」という言葉が使われるようになったが、十分に浸透しているとは言い難い。開発が進む離島を訪れると、これからの時代のマーケティングは、こうした部分まで気にかける必要があると強く感じる。
人間は機械ではなく、動物だ。今一度、立ち止まって考える時にきているのではないだろうか。