「球聖」ボビー・ジョーンズが全英オープンで遭遇したハプニング

ロイヤルリザム&セントアンズ・ゴルフクラブ

1886年に創立したロイヤルリザム&セントアンズ・ゴルフクラブは、数あるリンクスのなかでも内陸に位置するコース。この地ではじめて、“球聖”ボビー・ジョーンズは全英オープンを制した。数々の大会を開催してきた歴史あるコースが、改修を経て手に入れた新たな魅力に迫る。


先月号でロイヤル・バークデール・ゴルフクラブをご紹介したが、今月号では同じリバプール近郊のロイヤルリザム&セントアンズ・ゴルフクラブを取り上げてみたい。

1886年に創立され、現在のコースが97年に建設されているが、過去には全英オープンを11回、全英女子オープンを少なくとも5回、それ以外にも2015年のウォーカーカップ、2回のライダーカップのホスト、19年には5回目の全英シニアオープン開催が決定している。

この地ではじめて、全英オープンで栄冠に輝いたのが、かの“球聖”ボビー・ジョーンズである。1926年にジョーンズは、ウォーカーカップとアマチュア選手権に出場するため来英。

しかしまさかの準々決勝で、地元のアマチュアプレイヤーに敗退した。そのため米国への帰国予定を延期して、全英オープンに参加すべくサニングデールで開催されている予選会に出場。2日間で66、68の134と完璧なプレイをしてみせる。ところがロイヤルリザム&セントアンズで開催の本選ではまた調子を落とし、最初の2日間で72、72の144であった。

その後ハプニングが起きる。決勝ラウンドを前に緊張をやわらげようと近くのホテルで休憩していたジョーンズは、会場へ戻るときに競技者用のバッジを置き忘れてきてしまったのだ。頑迷な警備員は、ジョーンズ本人とわからずに入場を拒否。

これに球聖ジョーンズは動ずることなく、正門へ回って観衆用の入場券を購入、入場を許されたそうだ。後にも先にも、伝統ある全英オープン覇者がお金を払ってプレイした唯一のケースになった、という逸話がある。

決勝はアル・ワトラウスとのマッチプレイの様相を呈し、全英オープンの場でアメリカ人同士の戦いとなった。途中までワトラウスが2打リードしていたが、16番ホールが終了した時点ではイーブンに。そんななか、17番ホールでの第1打でワトラウスがフェアウェイのど真ん中に乗せたのに対して、ジョーンズはバンカーに捕まるという緊迫した展開が訪れる。



バンカーからグリーンが見えず、フェアウェイの反対側まで行ってグリーンの位置を確認したジョーンズは、そこで残り175ヤードながらグリーンをしっかり捉えるスーパーショットを放った。先にパーオンしていたワトラウスはこれに動揺し、スリーパットのボギーを出し1打ビハインド、そのままジョーンズはじめての全英オープン制覇となった。
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文=小泉泰郎

この記事は 「Forbes JAPAN 世界を変えるデザイナー39」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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