「切ること」と「火を使うこと」 料理人という仕事について

ゲストシェフとして海外のホテルに招かれることもあれな、講師として企業のセミナーに呼ばれることもあります


食サミットの会場は原宿の東郷神社でした。原宿は、全国、そして世界へと広がる流行の震源地です。

また東郷神社には、イギリス留学を経て、日露戦争の日本海海戦において東郷ターンを決めて日本を救った東郷平八郎さんが祀られていますが、この英雄には、実は食についても興味深いエピソードがあります。

それは、肉じゃがを開発した(させた)こと。明治34年の海軍鎮守府の赴任時、イギリス留学の頃に食べた「ビーフシチュー」を料理長に依頼したところ、赤ワイン、バター、デミグラスソースがないので、醤油、砂糖、ごま油で代用して作られたのが肉じゃがだという伝説があります(諸説あり)。



肉、ジャガイモ、玉ねぎ、人参といった主材料は変わらずとも、調味料が変わると料理の「国籍」が変わる。このようにフレーバーの変化によってローカライズすることで新しい価値を生み出すというのが、料理の面白いところかもしれません。つまり、何事も、本質を見失わずに発想の転換が必要ということでしょうか。

文明は火(熱)から始まった

気づけば、東京五輪まであと1年半となりました。1964年の前回大会以降、日本は急激な経済成長は遂げたものの、社会では核家族化が進み、子供にも大人にも孤食が広がり、食の品質が向上する一方、食文化の衰退が深刻になっています。

2020年に再び五輪が開催されるまでに、少しでもその歪みが見直され、正され、東京を訪問する世界中の人々に、日本を通して食文化の大切さを見直すきっかけを持ち帰っていただきたい。

「情熱を伝えるとは、愛を芽生えさせるということだ」と、師匠であるサクラダファミリア芸術工房監督の外尾悦郎さんはおっしゃいます。心に焔(ほむら)を灯していくこと。一人一人の心の中に情熱の芽を植えていくことが、これからの未来を考える大きな一歩なのだと思います。

時短や効率化がうたわれ、人の生活から火が消えていきつつありますが、文明は料理の火から、つまり、情熱から始まったということを忘れないでいたいものです。

連載:喰い改めよ!!
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文=松嶋啓介

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