主人公のジョーンを演じたグレン・クローズは、この作品の演技でアカデミー賞の主演女優賞にノミネートされている。受賞作家の妻でありながら、影のノーベル賞作家でもある、彼女のパラドクシカルな演技は完璧のひと言だ。妻の葛藤のひとつひとつがグレン・クローズの秀逸な表情で刻まれていく。
(c)META FILM LONDON LIMITED 2017
とても現代文学の巨匠とは思えない存在の軽い夫に対して、つねに思慮深い態度を崩すことのない妻。この夫婦のコントラストも効いている。妻は夫の許しがたい性向を感じつつも、愛情をもって理解しようとつとめる。とはいえ、長年連れ添った夫婦であるがゆえの愛憎が、ノーベル賞の受賞というイベントによって鮮明になっていく。このあたりのドラマづくりは、実に見事だ。
夫婦のスリリングな会話に
監督はスウェーデン出身のビョルン・ルンゲ。ノーベル賞の様子をかなり詳細に描写している。ちなみにノーベル賞の会場は、ストックホルムではなく、イギリスのグラスゴーで撮影したらしく、実際の授賞式会場の2倍もある当地の建物をふたつ借り切って授賞式と晩餐会を再現しているという。ノーベル賞の舞台裏を見るうえでも興味深い作品となっている。
気になるのは、何故に妻が夫のゴーストライターとなるに至ったかという経緯だろう。妻は夫の大学での教え子だった。夫は作家でもあったが、妻の飛び抜けた才能に注目して、いつしか作品の手伝いを頼むようになる。もちろんそこには愛情も存在し、妻は不倫と知りながら夫との愛を貫く。
1960年代のアメリカは、まだ女性が作家として活躍するにはじゅうぶんな環境にはなかったという。女性ということで、本が出版されないこともあり、いつしか妻は夫の名前で作品を発表することになる。ふたりが結婚した直後から、夫の作品の名声は高まり、ついにはノーベル賞作家にまでのぼりつめるのだった。
(c)META FILM LONDON LIMITED 2017
この「二人三脚」は、ノーベル賞の晩餐会直後の決定的な出来事で幕を降ろすのだが、その際の妻の決断も、男性と女性によっては大いに意見が分かれるものとなるかもしれない。もちろん、冒頭の筆者が抱いた疑問などは取るに足らないもので、あるべき夫婦の関係を考える意味で、さまざまなテーマが内包された作品であることはいうまでもない。
夫婦やカップルならば、観賞後には、かなりスリリングな会話が展開されるかもしれない。
連載 : シネマ未来鏡
過去記事はこちら>>