「五つ星運動」創設者で人気コメディアンのペッペ・グリッロ氏 (Marco Ravagli / Barcroft Images / Barcroft Media via Getty Images)
同党は、「地元のことは政治家に丸投げせずに、そこに住む当事者である住民が決めるとし、そのために、自分たちの中からどんどん代表を議会に送り込んでいる。なお、『日本が売られる』によれば、イタリアでは出馬のための供託金もなく、議員として任期を終了すれば元の仕事に戻れる保証もあるそうだが、日本でも、住民から議会に人を送り込むには、そのような環境整備も必要だろう。
また、オンラインで気軽に立候補できたり、特定の人や団体からの影響がないように、選挙資金は専用アプリで多数の少額寄付を集めたりできる。議員報酬は一般労働者の平均と同額で、その半分はマイクロクレジット基金にし、それを必要な市民に融資として貸し出しも行う。任期は一人二期までに制限されている。
さらに同党は、新しいテクノロジーや直接対話なども活用し、次のような仕組みを構築し、国民・有権者との新しい関係性を構築している。
・アプリ「ルッソ」で、全政策の公開および党員がICT機器でメール投票し、党のマニュフェストの決定に参加。
・アプリ「シェアリング」などで、国政及び地方レベルで提出された法案に関して意見交換、市民提案でも党員投票で最多数集めれば、法案として提出。
・アプリ「イーラーニング」で、市民が自己の権利や政策などについて学習が可能。
・ネット上の議論の欠点等を克服するために、市民の中に入り、広場、カフェ、学校等で直接に顔を見ながら対話し、人間関係を構築し、市民との一体感や参加意識を醸成する。
まさに、市民ひとり一人がさまざまな形で決定やそのプロセスに参加し、自分自身の声や意見が意味を有することを、実感させるような仕組みと方策をとっており、テクノロジーの活用および従来の政治手法を組み合わせて、国民・有権者との新しい関係性を構築することで、新しい政治の方向性を示している。
一方で、五つ星運動は、ポピュリズムであると批判されている。同党の政策には、EU(単一通貨)への懐疑、極端な財政拡大、ワクチン接種義務化を廃止するなど、陰謀論的な政策なども含まれているからだ。
政治や政党は、国民・有権者に対して政策に関する適切な情報を提供し、冷静に考え判断させることも本来の重要な役割であろう。その意味からすると、五つ星運動にも問題・課題がある。同党の手法が偏った政策を生み出しやすいという危険性も考慮すべきであるが、本稿では、日本の政治と国民・有権者との新しい関係構築の可能性を考えるための一つの材料として、同党による市民の政治参加手法にのみ焦点を当てて論じていることを付け加えておきたい。
日本には独特の政治や政策作りの環境がある。それらを無視して、新しい政治が生まれても、今の政治を大きく変えていく力にはならないだろう。だが、五つ星運動の手法は、国民と政治の新しい関係性の構築、さらに日本の新しい政治や政策づくりの方策を形成していく上でも大いに参考になるのではないだろうかと思う。
日本でも、五つ星運動のような政治参加の形をつくり、日本の政治風土に適した政策をつくる政党が生まれてくれば、国民や有権者の多くを巻き込んでいける可能性もあるだろう。それが既存の政党にも刺激と影響を与え、日本の政治や政策作りを大きく変えていくことが出来るのではないだろうか。